「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


「あなたのやりたいことは何ですか」
就職活動でも、転職でも、会社の1on1でも、よく聞かれる問いです。
夢中になれる仕事がある。将来こうなりたいという目標がある。仕事を通じて実現したいことを、自分の言葉で話せる。
そんな人を見ると、「自分にも何か見つけなければ」と焦ることがあります。
でも、考えてもなかなか出てこない。
今の仕事がすごく嫌なわけではない。やる気がまったくないわけでもない。それなりに仕事もしている。それでも、「夢中になれるほどやりたいことは?」と聞かれると、言葉に詰まってしまう。
すると、やりたいことがない自分には主体性がないのではないか、仕事への熱意が足りないのではないか、と感じてしまうことがあります。
けれど、人が幸せに働くためには、本当に「夢中になれる何か」が必要なのでしょうか。
スカイベイビーズでは、自然体で働くことを、必ずしも大きな夢や明確なキャリア目標と結びつけて考えていません。誰と働くと自然に力が出るのか。どんな仕事の進め方なら手応えを感じられるのか。どんな環境なら安心して働けるのか。
「何を成し遂げたいか」だけではなく、そうした日々の感覚にも、その人なりの幸せの手がかりがあります。
夢中になれることがないと、幸せには働けないのか。会社は、社員一人ひとりに「やりたいこと」を求めるべきなのか。
代表・安井の視点からひも解きます。

クリエイティブディレクター・代表取締役。クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。2016年より山梨との二拠点生活をスタート。
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――夢中になれる「やりたいこと」がない人でも、幸せに働けるのでしょうか?

夢中になれることがあれば、仕事にやりがいを感じやすくなることはあると思います。でも、それがないと幸せになれないかというと、そうではありません。
そもそも、夢中になれるものがあるかどうかには、かなり個人差があります。ずっと追いかけたいものがある人もいれば、特にそういうものを持たずに生きている人もいる。それ自体に良し悪しはないですよね。
幸せの感じ方も人によって違います。
たとえば、「いつかこうなりたい」という未来の目標がなくても、目の前の人に役立てたことが嬉しい人はいる。
困っている人を助けられた。仲間の仕事が少し楽になった。お客さまに喜んでもらえた。それで十分に手応えを感じられるなら、それも一つの「やりたいこと」だと思います。
やりたいことという言葉を、大きな夢や遠い未来の目標だけに限定しなくてもいいんじゃないでしょうか。
――やりたいことがないと、主体性がないように見られることもあります。

少し「夢中ハラスメント」みたいなものはある気がします。
夢を持ちなさい。やりたいことを見つけなさい。将来どうなりたいのかを決めなさい。
そういうことを求められる場面は結構多いですよね。
もちろん、本人にやりたいことがあるなら、それを応援すればいいと思います。ただ、「やりたいことを持っていること」が、働くうえでの前提になると少し違う。
会社側から見ると、目標がある人はマネジメントしやすいんだと思います。「ここを目指したい」というものがあれば、それに合わせて目標設定もできるし、成長の方向も一緒に考えやすい。
でも、組織が成果を出す方法は、個人の夢中だけではありません。
一人ひとりが壮大な夢を持っていなくても、それぞれの力がうまく噛み合って結果が出る組織はつくれる。だから、「夢中になれるものがない=働く意欲がない」と結びつけないほうがいいと思います。
――最初からやりたいことが明確ではなくてもいいのでしょうか?

私は、最初から遠い未来の目標を持っている必要はないと思っています。私自身も、20歳の時に「30歳にはこうなっていたい」というものが明確にあったかというと、ほとんどなかったと思います。
ただ、目の前のことに対しては比較的、「これをやってみたい」が出るタイプでした。このデザインをやってみたい。この仕事を担当してみたい。今来ている仕事の中なら、これは面白そうだなと思う。
そういう小さな好奇心はありました。
やってみたら、「これは意外と自分に向いていないな」とわかることもあります。でも、それでいいんですよね。
自分から一度やってみると、何が好きだったのか、何が苦手だったのかも振り返りやすくなる。
やりたいことは、最初に完成した形で見つけるものではなく、仕事をしながら少しずつわかってくる場合もあります。
――まずは、自分の好奇心に従ってみるといいいうことですか?

そうですね。好奇心に従うというのをもう少し噛み砕いて言うなら、自分がどんな時にやりがいや幸せを感じるのかを知っておくということかもしれません。
たとえば、同じ仕事をしていても、手応えを感じるポイントは人によって全然違いますよね。
売上が数字として上がることが嬉しい人もいる。誰かの期待に応えられることが嬉しい人もいる。チームで一緒に何かをつくることに楽しさを感じる人もいる。安心できる関係の中で働けること自体に、幸せを感じる人もいる。
どれが正しいということではありません。
自分が何に反応しているのかがわからないまま、「やりたいことを見つけよう」とすると、なかなか答えが出ない。むしろ、「今日ちょっと気持ちよく働けたのはなぜだろう」と見ていくほうが、自分のことがわかる場合があります。
――やりたいことが見つかった時も、その理由を考えたほうがいいのでしょうか?

そこは少し考えてみたほうがいいと思います。
仮に「この分野でナンバーワンになりたい」と思ったとします。でも、その人が本当に好きなのは、ナンバーワンという結果かもしれないし、そこへ向かって成長していく過程かもしれない。
同じ言葉でも、中身は違います。
「マネージャーになりたい」と思った時も、肩書きが欲しいのか、人を育てることが好きなのか、大きな意思決定をしてみたいのかでは全然違う。
やりたいことそのものだけを見るよりも、「なぜ、それをやりたいと思ったのか」を少し見てみる。そうすると、自分が仕事の中で大切にしたいものが見えやすくなると思います。
――「やりたいことがない」という人は、何を考えてみるとよいでしょうか?

「自分は何がしたいんだろう」だけを考え続けなくてもいいと思います。別の問いから見てみてもいい。
たとえば、自分はどんな時に自然に力が出るのか。
一人で集中している時なのか。誰かと話しながら考えている時なのか。少し難しい課題に挑戦している時なのか。それとも、落ち着いた環境で丁寧に進められる時なのか。
あとは、どんな関係性なら安心して働けるのか。どのくらいの忙しさなら無理がないのか。どういう時に手応えを感じるのか。
こういうものも全部、「幸せに働く」ということの中に入っています。大きなやりたいことが見つからなくても、自分にとって自然に力が出る条件が少しずつわかれば、働き方は選びやすくなると思います。
例えば、以下のようなことを考えてみてほしいです。

これも、正解を出すためのチェックではありません。
「自分はどの条件に反応しただろう」と眺めてみることで、夢や目標とは少し違う、自分なりの働く軸が見えてくることがあります。
やりたい仕事の名前はわからなくても、「こういう状態なら自分は力を出しやすい」はわかる。それだけでも、働き方を考える大事な手がかりになります。
――自分のやりたいことと、会社から求められていることがずれている場合はどう考えればいいでしょうか?

業務そのものがどうしても嫌いなのであれば、仕事との相性は考えたほうがいいと思います。
たとえば、数字を見ること自体がものすごく苦手なのに、一日の大半を数字と向き合う仕事をしていたら、それはかなりつらい。
ただ、一定の興味を持てる仕事であれば、その仕事への関わり方はいろいろあります。
同じ仕事でも、数字として成果を出すことに手応えを感じる人もいれば、チームの期待に応えることが嬉しい人もいる。つまり、「何の仕事をするか」だけではなく、「その仕事の中で何を受け取っているか」も大きい。
自分が手応えを求めているのに、それを感じられない進め方をしていたら苦しくなるし、安心して働くことが大事な人に、ずっとリスクを取り続けることを求めたらしんどくなる。
会社の期待と自分のやりたいことを完全に一致させるより、自分がその仕事の中でどんな価値を感じられるかを見るほうが現実的な場合もあると思います。
――企業側には、「やりたいことがない人は成果も出しにくい」という不安もありそうです。

そこは完全に別の話だと思います。
成果を出すだけで言えば、目標を明確にしたり、課題を特定したり、必要な行動を整理したりすることで改善できることはあります。
それはそれでマネジメントとして必要です。でも、「成果を出すこと」と「幸せに働くこと」は、同じ問いではありません。
会社が社員に何を求めるかによっても変わります。
成果さえ出せればいいのか。それとも、できるだけ本人が自然体で、幸せに働きながら成果を出せる状態をつくりたいのか。後者を目指すのであれば、個人の夢中だけに頼らないほうがいい。
本人が持っているスキルや特性、それぞれの力が出やすい条件を見て、うまく組み合わせる。それが組織側の仕事になってくると思います。
――部下から「特にやりたいことがありません」と言われたら、マネージャーはどう関わればよいでしょうか?

まず、「やりたいことを起点に考えなくてもいい」と伝えてあげてもいいと思います。
幸せに働ける理由は、夢中になれる仕事だけではありません。
関係性がいい。余白がある。自分で決められる部分がある。得意なことを活かせる。安心して働ける。いろいろな要素があります。
でも、「あなたは何がしたい?」からしか会話を始めないと、やりたいことが明確ではない人はずっと答えられない。
本人も、「答えられない自分がおかしいのかな」と思ってしまう。
だったら、「どういう仕事の時に手応えがありますか」「誰と働くとやりやすいですか」「今の仕事で嫌ではない部分はどこですか」と聞いてもいい。その人が幸せに働ける条件を、一緒に探していくほうが意味があると思います。
――組織としては、具体的に何を見るとよいのでしょうか?

「この人は、どういう状態なら自然に力が出るんだろう」と見ることだと思います。
どんな人と一緒だとアイデアが出るのか。どれくらいの忙しさなら、無理なく仕事を続けられるのか。一人で考えるほうがいいのか、誰かと壁打ちしたほうがいいのか。どんな時に手応えを感じているのか。
そういう条件は、一人ひとり違います。
組織がそこを見ずに、「みんな夢中になれる仕事を見つけてください」と言ってしまうと、かなり個人任せになります。
でも、自然に力が出る条件を一緒に探すことなら、組織にもできる。
個人の特性やスキルを並べて、噛み合わせを考える。その人が過度に無理をしなくても力を出せる場所をつくる。そういう状態で、気づいたら成果も出ていたという組織のほうが、私は自然だと思います。
――夢中になって働く人が多い組織ほど、活性化しているようにも見えます。

全員が仕事に夢中になっている必要はないと思います。もちろん、夢中になっている人がいるのはいいことです。その人のエネルギーが周囲に良い影響を与えることもある。
ただ、それを全員に求め始めると苦しくなる。
仕事が人生で最も大切な人もいれば、そうではない人もいる。家族との時間を大切にしたい人もいるし、安定して働けることに幸せを感じる人もいる。
そういう違いがある中で、一つの「理想の働き方」に全員を寄せる必要はありません。
組織が見るべきなのは、その人が夢を持っているかではなく、その人なりに自然に力を出せる状態があるかどうかだと思います。その違いを受け入れながら、それぞれの力が組織の中でうまく噛み合っている。
そういう状態も、十分に活性化している組織だと思います。
夢中になれる仕事があることは、素敵なことです。けれど、それを持っていることだけが、幸せに働く条件ではありません。
遠い未来の夢がなくても、目の前の誰かに貢献することに喜びを感じる人がいる。安心できる仲間と働けることを大切にする人もいる。自分で工夫できることや、日々小さな手応えがあることで満たされる人もいる。
やりたいことがない時に、無理に「人生をかけられる何か」を探さなくてもいいのだと思います。
それより、自分はどんな時に自然に力が出るのか。どんな関係の中なら穏やかに働けるのか。何に小さな喜びや手応えを感じているのか。そこに目を向けてみる。
スカイベイビーズは、全員が大きな夢を掲げることよりも、一人ひとりが自分なりの幸せの条件を知り、自然体で力を出せる組織であることを大切にしています。
あなたに今、夢中になれる「やりたいこと」がなかったとしても、それは本当に問題なのでしょうか。もしかすると探したいのは、「何をしたいか」ではなく、「どんな時の自分なら、無理なく幸せに働けるのか」なのかもしれません。
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