「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


ウェルビーイング経営で成果を上げている企業の成功事例には、「自社の課題を出発点にする」「理念や経営戦略に組み込む」「社員が主役になる仕組みをつくる」という共通点があります。
本記事では、企業自身の公式発信をもとに、国内8社・海外5社の成功事例を「課題・目的」「施策」「効果・結果」の3つの視点で解説します。
監修は、幸福学の第一人者・前野隆司氏とウェルビーイングサーベイを共同開発した株式会社スカイベイビーズです。基本から知りたい方は「ウェルビーイング経営とは?健康経営との違い・事例・課題・取り組み方まで解説」もあわせてご覧ください。
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株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。
本記事で紹介するウェルビーイング経営の事例13社を、業種・規模・主な施策・主な成果で一覧にまとめました。気になる企業から詳細をご覧ください。なお、規模は公開情報をもとにした目安です。
| 企業名 | 業種 | 規模 | 主な施策 | 主な成果 |
| PHONE APPLI | IT・クラウドサービス | 中堅・中小 | 毎週の1on1、幸福度の月次測定 | 幸福度スコア改善、3年定着率94.7% |
| 丸井グループ | 小売・フィンテック | 大企業 | 手挙げ式の文化変革、CWOの設置 | 健康経営銘柄に9年連続選定 |
| GCストーリー | 施工管理などのサービス | 中小(100人以下) | フラット化、パーソナルミッション | ホワイト企業大賞「大賞」 |
| ミタニ建設工業 | 建設 | 中小(約170名) | 社内コーチの育成、2on1 | 離職率83%→0% |
| 京屋染物店 | 製造(染色・縫製) | 小規模(30人弱) | 個人の幸せと経営数字の共有 | 給与増と累積赤字の削減 |
| 勝榮会 | 医療 | 中小 | スタッフファースト、公平な評価制度 | ホワイト企業大賞特別賞を3度受賞 |
| 王宮 | 宿泊(ホテル) | 中小 | 権限委譲、コロナ禍での雇用維持 | ホワイト企業大賞「大賞」 |
| スカイベイビーズ(当社) | Web制作・ブランディング | 小規模(約20名) | フラットな組織、独自サーベイの開発 | メンバーの意識と働き方の変化 |
| Buffer | ソフトウェア | 小規模(約90名) | 給与を下げない週4日勤務 | 91%が幸福度・生産性の向上を実感 |
| ユニリーバ | 消費財 | 大企業 | 予防健診、4つの柱の枠組み | 5.9万人を支援、休業期間の短縮 |
| パタゴニア | アウトドア衣料 | 大企業 | 社内保育施設 | 母親社員の職場復帰率100% |
| J&J | ヘルスケア | 大企業 | エネルギー管理研修、健康補助 | 88%が経営陣の支援を実感 |
| マリオット | 宿泊(ホテル) | 大企業 | TakeCare、現場の推進役 | 推進役が1万4,000人超に |
ウェルビーイング経営は、自社と条件が近い企業の事例ほど参考にしやすくなります。ここでは「規模」「業種」「解決したい課題」「始めやすさ」の4つの切り口で、本記事の事例を整理しました。
会社の規模によって、使える予算や仕組みづくりの進め方は大きく変わります。まずは自社と近い規模の事例から見てみましょう。
同じ業種の事例は、現場の働き方や抱えている課題が似ているため、施策をそのまま取り入れやすいのが利点です。
ウェルビーイング経営は、自社の課題を起点に始めた企業ほど成果につながっています。いま一番解決したい課題から事例を選んでみてください。
大きな制度改革から始める必要はありません。予算や準備の負担に合わせて、取り入れやすい事例を選べます。
社員の幸せと企業の成長を両立させる「ウェルビーイング経営」。ここでは、企業自らがnoteや公式サイト、オウンドメディアで発信している情報をもとに、業種も規模も異なる国内企業8社の事例を「課題・目的」「具体的な施策」「効果・結果」の3つの視点で紹介します。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社PHONE APPLI |
| 業種 | 情報通信業(クラウドサービスの企画・開発) |
| 概要 | 2018年から推進 |
| 毎週30分の1on1 | |
| 幸福度を毎月測定 |
クラウドサービスを開発するPHONE APPLIは、社員のモチベーション調査で低評価を受けたことを機に、健康経営と組織づくりを一体化。1on1や月次サーベイを軸にウェルビーイング経営を進めています。
PHONE APPLIは、社内外の連絡先を一元管理する「Web電話帳」などのクラウドサービスを開発するIT企業です。創業期は急成長の裏でシステム障害や納期遅れが相次ぎ、同社自身が「毎日が関ヶ原」と振り返るほど、社員に大きな負担がかかる状態が続いていました。
転機は2017年12月です。社員全員で外部のモチベーション調査を受けたところ、結果は格付けで下から2番目という厳しいものでした。オフィス環境などの不満を解消すると評価は改善しましたが、経営陣は「不満がなくなっただけで、前向きに働けているわけではない」と考えます。
そこで、別々に進めていた健康経営とモチベーション向上を「社員が前向きに働ける状態をつくる」という一つの目標にまとめ、ウェルビーイング経営に踏み出しました。
2019年、同社は健康経営をウェルビーイング経営へと発展させ、専任の部署を設けました。2020年には、各部署から選ばれた社員が推進役を担う「Wellnessアンバサダー」を発足し、社長自らがCWO(ウェルビーイングの最高責任者)に就任しています。
日々の土台となっているのが、上司と部下が毎週30分行う1on1です。上司が話しすぎないよう、発話量は上司3:部下7を目安にしています。社員同士が感謝を送り合う仕組みも導入しました。
さらに、12問の独自サーベイで組織の幸福度を毎月測定し、管理職は自チームのスコアの変化をきっかけにメンバーと対話します。全社員を対象にした対話会で集めた500以上の声は、人事評価制度の見直しにもつなげました。
取り組みの成果は数字にも表れています。独自サーベイの平均スコアは、2020年度の4.83点から2024年度には5.18点(7点満点)まで上昇しました。2024年度に入社した社員は全員が定着し、過去3年間の定着率も94.7%と、業界平均の約87%を上回っています。
業績面では、継続課金型の売上(リカーリング収益)が2020年度の12億円から2024年度には38億円と、約3倍に成長しました。同社は因果関係を断定してはいないものの、ウェルビーイングへの投資を、離職を防ぐ「守り」とイノベーションを生む「攻め」を兼ねた経営投資と位置づけています。
2018〜2023年度には、健康経営の優良企業を認定する「ホワイト500」にも連続で選ばれました。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社丸井グループ |
| 業種 | 小売業・フィンテック |
| 概要 | 手挙げ式で文化を変革 |
| 産業医がCWOに就任 | |
| 健康経営銘柄9年連続 |
商業施設「マルイ」やエポスカードを展開する丸井グループは、業績至上主義で薄れた社員の信頼関係を立て直すため、企業文化の変革に着手。手挙げ式のプロジェクトでウェルビーイングを推進しています。
丸井グループは、商業施設「マルイ」やクレジットカード「エポスカード」を展開する企業グループです。2007年、社長は全社員に「私たちはなぜ働くのか」と問いかけました。
当時の社内は極端な業績至上主義に陥り、社員同士の信頼関係が薄れていたためです。この風土から抜け出すことが、経営の最優先課題でした。
一方で、健康診断や生活習慣の改善といった健康面の基盤は、長年の取り組みによってすでに整っていました。そこで同社は、WHOが定める健康の定義「身体的・精神的・社会的に満たされた状態」を次の目標に据えます。
目指したのは社員の健康そのものではなく、社員が生き生きと働くことで、社会全体を「しあわせ」にすることでした。
同社はまず企業理念をつくり直し、社員との対話から改革を始めました。そのうえで、働き方改革、多様性の推進、自ら手を挙げた人に機会を与える「手挙げの文化」、評価制度の見直しなど8つの施策を同時に進めます。
ウェルビーイングもその一つで、企業文化の変革と一体で取り組んでいるのが特徴です。推進役は、手挙げで集まった社員による「Well-being推進プロジェクト」です。役員・管理職には、ストレスから立ち直る力を高めるプログラムを実施しています。
体制面では、産業医でもあるCWOが健康保険組合の理事長を兼ね、人事部門や労働組合と毎月連携しています。2024年度からは、仕事に没頭できる「フロー」状態を生む職場づくりにも着手し、のべ約2500人を対象に3カ月ごとの職場調査を行っています。
施策の成果は、具体的な数字で確認できます。たとえば、性別特有の健康課題について「職場でサポートし合える」と答えた社員は、2023年度の39%から2025年度には69%まで増えました。
自ら手を挙げて研修などに参加する社員は85%にのぼり、男性の育休取得率は2019年度から100%を維持しています。
働きやすさの面でも、月間の平均残業時間は4.5時間、女性管理職比率は21%です。外部からの評価も高く、経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「健康経営銘柄」に9年連続で選ばれました。
これは小売業で唯一の実績です。ただし、8つの施策を同時に進めてきたため、ウェルビーイング単独の効果を切り分けるのは難しい点には留意が必要です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | GCストーリー株式会社 |
| 業種 | 施工管理などのサービス業 |
| 概要 | 2018年にフラット化 |
| 全員がパーソナルミッション | |
| ホワイト企業大賞を受賞 |
施工管理などのサービスを手がけるGCストーリーは、評価制度で示した「正しさ」が社員を傷つけた反省から、管理する経営を手放す決断をし、フラット型組織とパーソナルミッションの共有を進めています。
GCストーリーは、看板などの施工管理を軸に、企業向けのサービスを手がける会社です。同社は2018年頃、社員の人格的な成長を重視する考え方(フィロソフィー)を評価制度に組み込んでいました。
ところが、評価項目どおりに行動できない社員の中に「自分はダメな人間だ」と感じ、心を痛める人が出てきてしまいます。この状況を見た代表の西坂勇人氏は、「会社が『正しい生き方』を示し、それで社員を評価することは本当に良いのか」と疑問を抱きました。
そこで、会社が社員を一つの方向へ導く経営をやめ、社員一人ひとりが自分の幸せを追求することこそ組織の幸せにつながる、という考え方へ転換します。社員の前にいると意見を言ってしまうからと、代表自身が出社をやめたほどの徹底ぶりでした。
2018年2月、同社はマネージャー職をなくした「フラット型組織」へ移行しました。上司の指示を待つのではなく、一人ひとりが自分で何をするかを決めて動く働き方です。
Wantedlyで公開されている社員対談でも、元マネージャーの社員が「自律が強く求められるようになった」と語っています。その土台となっているのが、全社員がつくる「パーソナルミッション」です。
「自分は何のために生まれてきたのか」と向き合って言葉にし、社員同士で共有します。新卒社員も、入社前の研修で自分のミッションを設定します。
フルリモート勤務になった今も朝礼は続けていますが、その目的は管理ではなく、仲間と「つながる」ためのコミュニケーションへと変わりました。
こうした取り組みは外部からも高く評価されています。社員の幸せと働きがいを大切にする企業を表彰する「ホワイト企業大賞」では、第6回の大賞を受賞しました。また、働きがいのある会社ランキングにも5年連続で選ばれています。
第三者メディアの取材記事によると、国が義務づけるストレスチェックの集団分析では、100人以下の部門で職場環境が最も良い企業として1位を獲得しました。社員からは「忙しいときでも、会社が大切にしていることに立ち返れる」という声も聞かれます。
評価制度で社員を傷つけた失敗を認め、管理する経営を手放した点は、多くの企業にとって参考になるでしょう。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | ミタニ建設工業株式会社 |
| 業種 | 建設業(舗装・土木・建築) |
| 概要 | 危機からの組織再建 |
| 社内コーチ養成チーム | |
| 離職率83%→0% |
高知県の総合建設会社ミタニ建設工業は、官製談合の発覚と高い離職率という危機から、社員主導の自律型組織への転換に挑戦。社内コーチの育成などを通じて、離職率0%を実現しました。
ミタニ建設工業は、高知県で舗装・土木・建築を手がける総合建設会社です。2012年、3代目社長の就任前に行われていた官製談合が明らかになり、全国で報道されました。
同社は1年7カ月にわたって公共工事を受注できなくなり、約9億円の課徴金・違約金も科されています。会社の信頼が大きく揺らぐなか、社員の離職も相次ぎました。同社の公表データでは、2015年度の離職率は83%にも達しています。
この危機を乗り越えるため、同社は経営トップがすべてを決めるトップダウン型の組織から、社員が主体となって動く組織への転換を決めました。現在は「社員主導の自律型組織で、全社員の成功(幸せ)をサポートする」ことを、目指す組織像として理念に掲げています。
組織づくりの中心にあるのが、2021年9月に発足した「社内コーチ養成チーム」です。社内で育てたコーチが各現場のリーダーにコーチングを行い、チームづくりやメンバーとの関わり方を支援しています。
このほか、互いの強み・弱みを共有して自ら動けるチームを目指す研修や、リーダーの育成課題をフォローする「2on1コーチング」、社員自身が講師を務めるICT勉強会も行っています。
次世代のリーダーは経営者と一緒に外部研修を受け、社員主導の組織に向けた自社のミッションやビジョンを自分たちで考えました。採用では1人の応募者と7〜8回の面談を重ね、本人が心から「ここで働きたい」と思えるかどうかを大切にしています。
最も大きな変化は離職率です。2015年度に83%だった離職率は、2023年度には0%になりました。2022〜2024年に入社した新卒社員も、3年間で1人も辞めていません。
働き方も改善しています。年間の平均有給取得日数は、2017年度の4.9日から2023年度には13日へと大きく増え、月平均の残業時間も約30時間から約21時間に減りました。
健康経営優良法人にも連続で認定され、2025年には社員が主体となった会社づくりが評価されて「ホワイト企業大賞」の特別賞を受賞しています。人手不足が深刻な建設業界で、危機の底から定着率を劇的に改善した再建型の事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社京屋染物店 |
| 業種 | 製造業(染色・縫製) |
| 概要 | 個人の幸せを全員で共有 |
| 経営数字を全員で学ぶ | |
| ホワイト企業大賞を受賞 |
岩手県一関市で100年以上続く京屋染物店は、事業承継と業界の逆風のなかで、仕事の意味と社員一人ひとりの幸せを全員で共有する経営へ転換。社員30人弱の規模で実践しています。
京屋染物店は、岩手県一関市で1918年から続く染物店です。祭りで着る半纏(はんてん)や法被(はっぴ)などを、デザインから染め、縫製まで一貫して手がけています。2010年に先代の父が急逝し、当時32歳だった蜂谷悠介氏が4代目として経営を引き継ぎました。
しかし、事業を取り巻く環境は厳しいものでした。売上の8割を占める祭り用品の受注生産は、繊維業の衰退や地域の人口減少に加え、震災後の自粛ムードやコロナ禍による祭りの中止で大きな打撃を受けます。
蜂谷氏自身、震災後は「自分たちの仕事には価値がないのでは」と悩みました。そんなとき、被災地でボロボロの半纏を宝物として見せてくれた男性に励まされ、自分たちの仕事が人の人生に寄り添うものだと気づいたことが、経営を見つめ直す転機になりました。
同社は、会社の存在意義(パーパス)やビジョンを、社内で繰り返し語り続けています。そのうえで特徴的なのが、社員一人ひとりが毎年「数年後に会社でどう活躍していたいか」と「プライベートでどんな幸せを感じたいか」を書き、全員で共有する取り組みです。
互いの目標や幸せを知ることで、社員同士が応援し合える関係をつくっています。また、全社員が経営シミュレーションゲーム(MG)と会計の考え方を学び、会社の数字を共通言語にしています。
「やりたい」と思ったことを計画・実行・振り返りのサイクルで形にできる体制もあり、事務職で入社した社員が自社ブランドの立ち上げを任されるなど、職種の枠を超えて活躍する人も少なくありません。
経営面では着実な改善が見られます。蜂谷氏のnoteによると、社員の給与を毎年少しずつ上げながら、過去の累積赤字も減らすことができています。研究開発や人材育成にも計画的に投資できるようになり、10年前とは見違えるような会社になりました。
事業面でも、祭り用品の受注生産に頼る形から自社ブランド「縁日」などへと領域を広げ、業界への逆風が続くなかで売上を伸ばしています。2020年度には「ホワイト企業大賞」で最高賞の大賞を受賞しました。
社員30人に満たない小さな会社でも、仕事の意味と一人ひとりの幸せを共有することで、ウェルビーイングを経営の中心に据えられることを示す事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 医療法人社団勝榮会 |
| 業種 | 医療(内科クリニック・在宅診療) |
| 概要 | スタッフファーストへ転換 |
| 公平な評価制度を導入 | |
| 感謝と対話を仕組み化 |
東京都杉並区でクリニックを運営する勝榮会は、患者のために尽くすあまりスタッフが疲弊した経験から、理念を「スタッフの幸せが患者の幸せ」へと書き換え、教育と評価制度を整えました。
医療法人社団勝榮会は、東京都杉並区で内科を中心としたクリニックと在宅診療を運営する医療法人です。2013年の開院以来、「患者の想いを聴き・応え・超える」という理念を掲げ、スタッフが一丸となって診療に取り組んできました。その結果、開院当初から多くの患者に支持されるクリニックになります。
ところが、患者のために全力を尽くすあまり、スタッフは疲れ切ってしまいました。理想の医療を届けたい思いと、厳しい現実との板挟みになったのです。
同法人は働く環境について5年間試行錯誤を重ね、「スタッフが幸せだからこそ、患者さんも幸せになる」という考えにたどり着きました。そして、「関わる人全てに『安心』と『幸せ』を届ける」という新たな理念を掲げています。
同法人は「患者さんファースト」に加え、「スタッフファースト」を掲げて職場改革を進めました。スタッフが安心して幸せに働くためには、教育によって実力をつけることが一番だと考え、組織の価値観をまとめたハンドブックや部門ごとの業務マニュアルを整備しています。
さらに、医療機関では珍しい公平な評価制度を取り入れ、給与体系も一から見直しました。日々の仕事の中にも、対話と感謝の仕組みが組み込まれています。
朝礼では理念に沿ったエピソードを共有し、夕礼ではその日の目標の達成度を報告します。月1回の定例ミーティングでは、経営状況の報告や一人ひとりの成果、学んだ知識を発表し合い、その後の懇親の場で本音の対話や誕生日のお祝いをします。
感謝を文章で伝えるサンキューカードも取り入れています。
こうした取り組みは、外部からも繰り返し評価されています。「ホワイト企業大賞」では2020年以降、特別賞を3度受賞しました。2021年には「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の実行委員会特別賞も受けています。
外部機関によるホワイト企業認定ではゴールドを取得し、「人材育成・働きがい」と「健康経営」の2項目で満点を獲得しました。一方で「ワーク・ライフ・バランス」は20点中14点と、伸びしろも残っています。
2025年には「WELLBEING AWARDS 2025」のファイナリストにも選ばれました。患者への献身がスタッフの燃え尽きにつながりやすい医療現場で、理念そのものを見直した点に大きな価値がある事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社王宮(ブリッジホテルグループ) |
| 業種 | 宿泊業(ホテル) |
| 概要 | 社風の立て直しから着手 |
| 現場に決裁権を委譲 | |
| コロナ禍でも雇用を維持 |
大阪で道頓堀ホテルなどを運営する王宮は、人間関係が最悪だった社風の立て直しから着手。誠実を軸にした理念と現場への権限委譲を進め、コロナ禍でも社員とアルバイトの雇用を守り抜きました。
株式会社王宮は、大阪・道頓堀で1970年に開業した「道頓堀ホテル」をはじめ、複数のホテルを運営する会社です。現在ホテル部門を率いる専務の橋本明元氏が入社した当時、同社は業績の低迷に加え、社内の人間関係にも深刻な問題を抱えていました。
社内には「お客様の声より経理の判断が正しい」という空気が漂い、社員はミスを恐れるあまり、報告すること自体が仕事になっていました。当時の社長はほとんど出社できない状態で、人を育てる仕組みもありませんでした。
中国のホテルで経験を積んで戻った橋本氏は、社風の立て直しから着手します。社是に「誠実」の言葉を入れ、経営ビジョンには「共に幸せと誇りを感じる会社」を掲げました。良い社風があってこそ理念を実現できる、という考えからです。
社風づくりのために、同社は社員同士のつながりを深める仕組みを整えました。誕生日に社員同士でメッセージを送り合う「誕生日カード」や、役職に関係なく誰でも課題を提案できる「改善提案箱」、月1回の社内勉強会などです。
また、現場に決裁権を任せたところ、社員が積極的に提案するようになり、予算への意識も自然と高まりました。社員を大切にする姿勢が最もよく表れたのが、コロナ禍の対応です。
全ホテルが休業して売上がゼロになるなか、経営陣は「一番大切なのはみなさんの健康」「給与を払うこと」の2点を全員に伝えました。正社員とアルバイトを分け隔てなく休業補償の対象とし、雇用保険のない学生アルバイト約60人にも、支配人が一人ひとり電話で伝えています。
休業中には40人とオンライン面談を行い、全員の自宅に手書きのハガキを送りました。
社員との信頼関係は、行動にも表れています。コロナ禍の休業中には、社員たちが社長と専務を励ます20分間の動画をつくって贈りました。
事業面では、訪日外国人に向けた独自のおもてなしを磨き上げ、道頓堀ホテルは年商10億円を超えるまでに成長しています。2023年度には「ホワイト企業大賞」で大賞を受賞し、経済産業省の先進モデル企業にも認定されました。
以前には、3年間の離職者がわずか1人だったことも評価されています。今後は初任給30万円、平均年収700万円の実現を目標に掲げています。売上がゼロの局面でも社員を守り抜いた判断が、揺るぎない信頼を築いた事例です。
▼この章の参照元
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社スカイベイビーズ |
| 業種 | Web制作・ブランディング |
| 概要 | 理念は「自然体で、生きる。」 |
| フラットな組織運営 | |
| 独自サーベイを共同開発 |
最後に、本記事を運営する当社スカイベイビーズの取り組みもご紹介します。私たちは理念「自然体で、生きる。」を掲げ、フラットな組織づくりと独自サーベイの開発を通じて、ウェルビーイング経営を実践しています。
当社スカイベイビーズは、企業のWebサイト制作やブランディングを手がける、メンバー約20名の会社です。私たちは企業理念として「自然体で、生きる。」を掲げました。
メンバー一人ひとりが自分らしく働き生きられる環境をつくり、さらに取引先やその家族、社会全体へと「自然体」を広げていくことを目指しています。この理念の背景には、3つの社会課題への問題意識があります。
人口減少による人材不足、仕事や職場に満足している人が少ない現状、そして気分障害に悩む人の増加です。私たちは、世代や性別でひとくくりにせず、一人ひとりの価値観や幸せの形に寄り添う必要があると考えました。
「自然体」はあえて余白を残した言葉です。その考え方を社外の方にも伝えるために、「ウェルビーイング」という言葉に置き換えて発信しています。
私たちは「そのほうが心地よい」という考えから、上下関係のないフラットな組織を選びました。メンバーはプロジェクトごとに複数のチームに関わり、立場に関係なく意見を交わしながら仕事を進めています。
働きやすさだけでなく働きがいも大切にしたいと考え、未経験の仕事に挑戦する機会も積極的に用意しています。社内の会やミーティングでは、一人ひとりが「自分にとっての自然体」を語り合う機会も多く設けています。
2024年10月には、幸福学の第一人者である前野隆司教授との約1年半の共同研究を経て、働く人の良い状態と悪い状態の両方を測るサーベイ「ソラミドWell-being」を公開しました。
社外の方も参加できるコミュニティ「ソラミドpeople」の運営や、代表の安井によるnoteでの「自然体経営論」の発信も続けています。
メンバーの意識にも変化が生まれています。未経験からPR・広報を担当しているメンバーは、多様な価値観を持つ仲間と話すなかで「自然体」の捉え方が広がり、仕事だけでなく「どう生きたいか」まで考えるようになったと話しています。
新しい挑戦を通じて、自分の新たな能力が次々と開かれていく感覚もあるそうです。また、サーベイ開発の過程で行った1000人規模の調査では、上下関係の強い組織よりフラットな組織に属する人のほうが、ウェルビーイングの度合いが高いという結果が出ました。
一方で、指示を出す人がいない組織への戸惑いや、物事を推し進める力が弱くなりがちといった課題も感じています。私たちはこれからも、メンバーに「夢中になること」や「自分らしさ」を押し付けず、一人ひとりの幸せの形を尊重する組織づくりを続けていきます。
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海外では、ウェルビーイングを福利厚生ではなく経営戦略として位置づける企業が増えています。ここでは、企業自身が公式ブログやWebサイト、経営幹部の公式発信で公開している情報をもとに、規模も業種も異なる海外企業の事例を「課題・目的」「具体的な施策」「効果・結果」の3つの視点で紹介します。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Buffer Inc.(バッファー) |
| 業種 | ソフトウェア(SNS運用管理ツール) |
| 概要 | 週4日勤務を導入 |
| 給与を下げずに実施 | |
| 91%が幸福・生産性向上 |
SNS運用ツールを提供するフルリモート企業のBufferは、コロナ禍で社員のストレスと燃え尽きが高まったことを受け、給与を下げずに週4日勤務を導入。社員の幸福度と生産性の両立を実証しました。
Bufferは、SNSの投稿予約や分析ができる運用管理ツールを提供する企業です。オフィスを持たず、世界各地のメンバーがフルリモートで働く会社として知られています。
2020年春、新型コロナウイルスの流行で各国がロックダウンに入り、メンバーは不安やストレスを抱えながら働いていました。社内調査でも、多くのメンバーが「休みを取りたくても取りにくい」と感じていることがわかりました。
CEOのジョエル・ガスコイン氏は、この時期に企業の中で静かに積み上がっていく「負債」がバーンアウト(燃え尽き)だと考えます。そこで、生産性を保つためではなく、メンバーの心の健康と家族との時間を守るために、働き方そのものを変える決断をしました。
2020年5月、同社は全89人を対象に、給与を下げずに週4日勤務を1カ月間試験導入しました。休んでも仕事が溜まらないよう、部署ごとに同じ曜日を休みにしています。
顧客サポートチームは、問い合わせ対応が途切れないよう、水曜と金曜の休みを週ごとに交互に取る形にしました。1カ月の結果を受けて、同社は6カ月間の本格的な試行へ移り、2020年末には週4日勤務の継続を決めます。
その後の運用では、金曜日にはミーティングを入れず、メールやチャットへの返信も求めていません。仕事が残った人は金曜を「予備日」として使うこともできますが、会社は働きすぎにならないよう注意を払っています。
1カ月の試行の前後で行った社内調査(5点満点)では、自律性が4.3から4.5に上がり、ストレスは3.3から2.7に下がりました。仕事の幸福度も3.9から4.2に高まっています。
同社は生産性の低下を覚悟していましたが、多くのメンバーから「仕事量はほとんど変わらず、休息が増え質が上がった」という声が上がりました。
約2年後の調査では、91%のメンバーが「週4日になって幸福度も生産性も上がった」と答え、84%が「必要な仕事を4日で終えられている」と回答しています。一方で、エンゲージメントスコアは低下し、その一因として雑談や交流の機会が減ったことが挙がりました。
同社はこの課題も率直に公開し、意図的なチームづくりに取り組んでいます。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Unilever PLC(ユニリーバ) |
| 業種 | 消費財メーカー(食品・日用品・化粧品) |
| 概要 | 4つの柱の枠組み |
| 予防健診を全社で展開 | |
| 約4,000人の相談役育成 |
食品や日用品を世界で展開するユニリーバは、生活習慣病の予防から始めた社員の健康づくりを、心や目的意識まで含むウェルビーイングへと拡大。20年以上かけて世界規模の仕組みに育てました。
ユニリーバは、食品や日用品、化粧品などを世界中で展開するイギリス発の消費財メーカーです。世界各地の工場やオフィスで多くの社員が働く同社にとって、社員の健康は事業を支える土台そのものでした。
2001年には、糖尿病や高血圧、心臓病といった生活習慣病を防ぐことを目的に、予防型の健康プログラム「Lamplighter(ランプライター)」を始めています。その後、同社は身体の健康だけでは不十分だと考えるようになります。
2014年には社内の委員会が、身体・メンタル・感情・目的意識という4つの柱からなるウェルビーイングの枠組みをつくりました。現在は「仕事と健康は深く結びついている」という考えのもと、社員が健康に過ごせる年数を延ばし、一人ひとりの力を引き出すことを、持続的な成長の条件と位置づけています。
中心となってきたのが、役職や勤続年数に関係なく全社員が受けられる予防健診「Lamplighter」です。身体の状態とあわせて心の状態も確認し、不調の兆しを早めに見つけて悪化を防ぎます。
さらに2015年からは、4つの柱を「充電と補充が必要なエネルギーの電池」にたとえて学ぶ「Thriveワークショップ」を開き、社員が自分のウェルビーイングを見直す機会をつくりました。
現在は、身体と心の健康、栄養や運動のコーチング、適切な支援先への案内までを一体で提供する「Healthier U」を展開しています。2020年からは、同僚の悩みに耳を傾けて支援につなぐ「メンタルヘルス・チャンピオン」の育成も始めました。
経営面では、ウェルビーイングを人事戦略に組み込み、取締役会による監督と測定可能なKPIのもとで推進しています。
取り組みは世界規模に広がっています。Lamplighterは毎年、75カ国以上で7万6,000人を超える社員を支え、2015年以降、Thriveワークショップには5万人以上が参加しました。
現在のHealthier Uも、56カ国の5万9,000人以上に届いています。効果の検証にも力を入れており、英オックスフォード大学と連携した独立した分析では、社員の生活の質や健康状態が改善し、健康上の理由による休業期間も短くなったことが示されています。
また、2020年以降に育成したメンタルヘルス・チャンピオンは約4,000人にのぼり、世界中に同僚同士で支え合うネットワークが生まれました。20年以上にわたって投資と検証を続け、ウェルビーイングを「成長の戦略的な原動力」と位置づけるまでに至った事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Patagonia, Inc.(パタゴニア) |
| 業種 | アウトドア衣料・用品の製造販売 |
| 概要 | 1983年から社内保育 |
| 母親の復帰率100% | |
| 費用の約91%を回収 |
アウトドア衣料のパタゴニアは、働く親が職場に戻りにくいという社会課題に対し、1983年から社内保育施設を運営。母親社員の職場復帰率100%を実現し、費用の大半を回収できることも示しました。
パタゴニアは、アウトドア用の衣料や用品を製造・販売するアメリカの企業です。創業から間もない1983年、創業者たちは本社に社員向けの保育施設を設けました。
子育てをしながら働く社員を支えることは、創業者たちにとって「当然やるべき正しいこと」だったからです。背景には、アメリカ社会が抱える深刻な課題があります。
アメリカでは、出産した働く女性の最大35%が元の職場に戻らず、戻っても保育施設や授乳の環境、有給の休暇が整っていないことが少なくありません。当時のCEOローズ・マーカリオ氏は、こうした支援の不足が女性リーダーの少なさにつながっていると指摘しています。
同社が目指しているのは、会社が社員にとって人生の「障害」ではなく「パートナー」になることです。
取り組みの中心は、カリフォルニア州ベンチュラの本社に設けた社内保育施設です。社員は職場のすぐそばに子どもを預けることができ、母親は必要なときに授乳することもできます。
同社は創業期から30年以上、この制度を守り続けてきました。会社が大きく成長してからも、保育の支援は広がっています。
2015年には、約400人が働くネバダ州リノの物流センターにも保育施設を設けました。さらに、30年以上の経験を書籍『Family Business』にまとめて出版し、他社が社内保育を始めるためのノウハウとして公開しています。
最も分かりやすい成果は、子育て中の社員の定着です。2016年までの5年間、出産休暇を取った母親社員は100%が職場に復帰しました。
また、保育施設を利用する親の離職率は、社員全体と比べて25%低くなっています。同社は、保育施設にかかる費用をどれだけ回収できているかも試算しました。
税制上の優遇で約50%、離職の減少で約30%、社員のエンゲージメント向上で約11%と、合わせて費用の約91%を毎年回収できていると見積もっています。社員の50%、上級管理職の50%を女性が占めていることも、成果の一つです。
社員を支えることが倫理的に正しいだけでなく、経営的にも成り立つことを数字で示した事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Johnson&Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン) |
| 業種 | ヘルスケア(医薬品・医療機器) |
| 概要 | 1978年から健康施策 |
| 年500ドルの健康補助 | |
| 88%が経営陣の支援を実感 |
医薬品や医療機器を手がけるJ&Jは、ヘルスケア企業として「世界で最も健康な社員」を掲げ、1978年から予防型の健康施策を開始。現在は心やお金の健康まで含めて社員を支えています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、医薬品や医療機器を手がけるアメリカの大手ヘルスケア企業です。同社は100年以上前から、本社の社員向けに健康センターや運動施設を設けてきました。
人々の健康を支える企業である以上、まず自社の社員が健康であるべきだという考えが、その根底にあります。1978年には、当時のCEOジェームズ・バーク氏のもとで予防型の健康プログラム「Live for Life」を始めました。
栄養やストレス管理を学べる場を社内に設け、社員が世界で最も健康な人々の一人になることを目指したものです。
現在も同社は「最も健康な社員を惹きつけ、支え、育てる」ことを掲げ、行動指針「我が信条(Our Credo)」に基づいて、身体だけでなく心や感情、お金の面も含めた社員の健康を大切にしています。
柱の一つが、エネルギー管理と回復力(レジリエンス)を高める研修「Energy for Performance」です。自分のエネルギーの使い方を見直すことで、回復力と人生への満足感を高めることを目指しています。
あわせて、心の健康に関する方針「Healthy Mind」を定め、専門家に相談できる従業員支援プログラム(EAP)や、管理職向けのメンタルヘルス研修も整えています。
日々の健康づくりを後押しする仕組みもあります。正社員とパートタイム社員に年間最大500ドルを補助する制度を設け、運動や食事、心のケア、休養に使えるようにしました。
2025年からは、お金の健康に関する支援にも使えるよう対象を広げています。また、世界中の社員が歩数を競い合う「Global Activity Challenge」を毎年開き、楽しみながら体を動かすきっかけをつくっています。
同社によると、長年の取り組みによって運動不足や喫煙、高血圧といった健康リスクが減り、医療費の伸びも抑えられてきました。2025年には4万人以上がウェルビーイング講座を受講し、71カ国の3万人以上がGlobal Activity Challengeに参加しています。健康補助制度も11万人以上が利用しました。
社員の実感は、毎年73カ国で行う社員調査で確認されています。2025年の調査では、88%が「経営陣が自分の健康とウェルビーイングを支えている」と答え、89%が健康支援の制度を好意的に評価しました。
さらに94%が「会社の目標達成のために一層努力したい」と答え、88%が「J&Jを働きがいのある職場として勧めたい」と回答しています。半世紀近く続く健康づくりが、社員の信頼と意欲に結びついている事例です。
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| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Marriott International, Inc.(マリオット・インターナショナル) |
| 業種 | 宿泊業(ホテルチェーン) |
| 概要 | TakeCareで心身を支援 |
| ホテルごとに健康認証 | |
| 推進役1万4,000人超 |
世界的ホテルチェーンのマリオットは、「人を第一に」という文化をもとに、身体・心・お金の健康を支える「TakeCare」を展開。現場の推進役を通じて、世界中のホテルに取り組みを広げています。
マリオット・インターナショナルは、世界中で数多くのホテルブランドを展開するアメリカの大手ホテルチェーンです。同社の文化の根っこにあるのが、「人を第一に(People First)」という考え方です。
社員(同社では「アソシエイト」と呼びます)を大切にすれば、社員がお客様を大切にしてくれる。この価値観が、社員の幸せとお客様の体験を結びつけています。
一方で、同社のホテルで働く人は2017年時点で67万人を超え、国も文化も職種もさまざまです。これだけ多様な現場で、一人ひとりの心身の健康やお金の不安にどう寄り添うかは大きな課題でした。
そこで同社は、身体・心・お金の健康は互いにつながっているという考えのもと、ウェルビーイングプログラム「TakeCare」を軸に、どの現場でも支援を受けられる仕組みづくりを進めてきました。
TakeCareの特徴は、各ホテルにいる「TakeCareチャンピオン」が推進役を担うことです。チャンピオンは現場の社員で、自分たちの職場や文化に合った形で取り組みを広めています。
2016年には、健康的な職場づくりを評価する社内認証制度を世界中の直営ホテルに拡大しました。チャンピオンの配置や、社員がゆっくり食事できる場の有無などを基準に、各ホテルの取り組みを認証しています。
近年は、心の健康を重点分野に据えています。2025年には、感情のコントロールや適応力、人とのつながりといった「回復力(レジリエンス)」を高めるキャンペーンを始め、一人ひとりに合わせた手引きを用意しました。
地域ごとの事情に合わせたお金の健康プログラムも始め、フランチャイズのホテルで働く人にまでTakeCareの対象を広げています。
社内認証制度は、多くのホテルに広がりました。2016年には920以上の拠点が申請し、726のホテルが認証を取得しています。
2018年には直営拠点の85%が認証を受け、直営ホテルの88%が勤務時間中にウォーキングや運動の時間を設けるようになりました。
推進役のTakeCareチャンピオンは、現在では世界で1万4,000人を超えています。本社の号令だけに頼らず、現場の社員が自分たちの職場に合ったウェルビーイングを広げる仕組みが根付いた点が、この事例の大きな特徴です。
ただし、社員の健康状態や定着率への効果は、同社の公式発信では数値として示されていません。
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ここまで紹介した国内8社・海外5社の事例は、業種も規模も国もさまざまです。それでも、ウェルビーイング経営を成果につなげている企業には、いくつかの共通点があります。
ここでは13社の事例から見えてきた7つの成功のコツを解説します。
なお、ウェルビーイング経営の定義や健康経営との違い、取り組み方の全体像は「ウェルビーイング経営とは?健康経営との違い・事例・課題・取り組み方まで解説」で詳しく紹介しています。
成功している企業の多くは、流行に乗ってウェルビーイングを始めたわけではありません。PHONE APPLIはモチベーション調査での低評価、ミタニ建設工業は不祥事と離職率83%、勝榮会はスタッフの疲弊、Bufferはコロナ禍での燃え尽きと、それぞれが抱えた切実な課題がきっかけでした。
課題がはっきりしているからこそ「何のためにやるのか」がぶれず、社員の納得も得やすくなります。まずは自社の現状を見つめ、解決したい課題と目指す姿を言葉にすることが第一歩です。
ウェルビーイングを単発の福利厚生で終わらせないことも共通点です。丸井グループは企業文化を変える8つの施策の一つに位置づけ、ユニリーバは人事戦略に組み込んで取締役会が監督しています。
J&Jは行動指針「我が信条」に基づいて取り組み、勝榮会は理念そのものを「スタッフの幸せが患者の幸せにつながる」形に書き換えました。当社スカイベイビーズも、理念「自然体で、生きる。」を実現する考え方としてウェルビーイングを掲げています。
理念や戦略と結びついていることで、一時的なブームで終わらず、長く続く取り組みになります。
制度をつくるだけでなく、経営トップが自ら行動で示している点も見逃せません。PHONE APPLIでは社長自らがCWOに就任し、BufferではCEOが「生産性のためではなく社員の心身のため」と宣言して週4日勤務を決めました。
王宮は売上がゼロになったコロナ禍でも、アルバイトを含む全員の給与を守り抜いています。GCストーリーの代表は、社員の自律を妨げないよう出社をやめるという決断までしました。
トップの本気度が伝わることで、社員は安心して制度を活用できるようになります。
本社や人事部だけで進めるのではなく、現場の社員が推進役を担う仕組みも共通しています。丸井グループでは手挙げで集まったメンバーが、PHONE APPLIでは部署横断の「Wellnessアンバサダー」が取り組みを広げています。
マリオットでは1万4,000人を超える「TakeCareチャンピオン」が各ホテルで活動し、ユニリーバでは約4,000人の社員が同僚の悩みに耳を傾ける役割を担っています。ミタニ建設工業の社内コーチ養成チームも同じ発想です。
現場を知る社員が動くことで、職場ごとに合った取り組みが根付きます。
特別なイベントよりも、毎日の小さな習慣を大切にしている企業が多いのも特徴です。PHONE APPLIは毎週30分の1on1、勝榮会は朝礼・夕礼とサンキューカード、王宮は誕生日カードと改善提案箱を続けています。
京屋染物店やGCストーリーは、社員一人ひとりの幸せやミッションを言葉にして共有しています。一方でBufferは、週4日勤務で雑談の機会が減り、チームのつながりが弱まる課題に直面しました。
関係性は放っておくと薄れていくからこそ、対話の場を意図的に仕組みにすることが重要です。
成果を出している企業は、効果を測る仕組みを持っています。PHONE APPLIは独自サーベイで組織の状態を毎月測り、J&Jは73カ国で毎年社員調査を行っています。
ユニリーバは英オックスフォード大学と連携して効果を検証し、パタゴニアは保育施設の費用をどれだけ回収できているかまで試算しました。注目したいのは、Bufferや当社スカイベイビーズのように、うまくいかなかった点まで率直に公開している企業があることです。
数字で現状を把握し、課題も含めて開示することが、次の改善と社内外からの信頼につながります。
最後のコツは、会社が「正しい幸せ」を押し付けないことです。GCストーリーは、人格の成長を評価制度に組み込んだ結果、社員を傷つけてしまった経験から、管理する経営を手放しました。
当社スカイベイビーズも、全員に夢中になれる仕事を求めることは、かえって人を苦しめると考えています。ユニリーバやJ&Jが身体だけでなく心やお金、目的意識まで支えているように、幸せの形は人によって異なります。
会社の役割は答えを示すことではなく、一人ひとりが自分らしく働ける環境と選択肢を用意することです。
A:自社の課題を出発点に目的を言葉にし、理念や経営戦略に組み込んだうえで、社員が主役となる仕組みで続けることです。
A:はい。社員30人弱の京屋染物店や約170名のミタニ建設工業のように、対話や育成など身近な施策から成果を出した企業もあります。
A:社員サーベイや離職率などで定期的に測定し、課題も含めて共有しながら改善を続けることが大切です。
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