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ウェルビーイング経営とは?健康経営との違い・事例・課題・取り組み方まで解説

近年、ビジネスシーンで注目されている「ウェルビーイング経営」。耳にしたことはあっても「具体的にどのような経営手法なのか」「どのように推進していけばいいのか」がわからないというお悩みを抱えているのではないでしょうか?

この記事では、ウェルビーイング経営の定義からウェルビーイング経営の取り組み方、ウェルビーイング経営に取り組んでいる企業の事例など詳しく紹介していきます。自社でウェルビーイング経営を推進していけるように参考にしてください。

この記事の監修者
Masato Yasui

株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。

ウェルビーイング経営とは?

ウェルビーイング経営とは、従業員一人ひとりが、肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされるように、組織の環境を整えていく経営手法のこと。「社会的」とあるように、従業員だけでなく、クライアントや株主、従業員の家族、地域社会、協力会社、政治・行政といったすべてのステークホルダーのウェルビーイングを追求する経営手法とも言えます。

ウェルビーイングとは?

ウェルビーイング経営について理解を深めるためにも、ウェルビーイングの定義について見ていきましょう。

世界保健機関(WHO)憲章のウェルビーイングの定義

世界保健機関憲章のウェルビーイングの定義は以下の通りです。

原文
HEALTH IS A STATE OF COMPLETE PHYSICAL, MENTAL AND SOCIAL WELL-BEING AND NOT MERELY THE ABSENCE OF DISEASE OR INFIRMITY.
日本語訳
健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、單(ひとえ)に疾病又は病弱の存在しないことではない。

(引用元:外務省『世界保健機関憲章』

原文の「WELL-BEING」の日本語訳は、「福祉の状態」です。福祉の状態とは、「幸福な状態」「満たされている状態」のことを指します。つまり「肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされていて、幸福な状態」のことをウェルビーイングと定めています。

厚生労働省のウェルビーイングの定義

厚生労働省のウェルビーイングの定義は以下の通りです。

「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精
神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。

(引用元:厚生労働省『雇用政策研究会報告書』

厚生労働省の資料には、「就業面からのウェル・ビーイングの向上が労働者一人ひとりの能力発揮を通じ、企業の生産性向上に寄与する」と書かれています。また「企業の生産性向上が、就業面からのウェル・ビーイングの向上のための原資をもたらす」とも書かれています。

つまりウェルビーイング経営を推進していく企業が増えることで、企業の生産性も向上し、さらに人々のウェルビーイングの実現にもつながるということです。

ウェルビーイング経営が注目を集めている背景

ウェルビーイング経営はなぜ注目されているのでしょうか。考えられる背景は以下の5つです。

  1. 人口の減少と高齢化による人材不足
  2. 技術革新とそれに伴う働き方改革
  3. 幸福度への注目度アップ
  4. SDGsの認知
  5. 新型コロナウイルスの影響

それぞれ詳しく紹介します。

1.人口の減少と高齢化による人材不足

1つ目の背景としては、「人口の減少と高齢化による労働人材の不足」が挙げられます。厚生労働省「雇用政策研究会報告書」によれば、日本の人口は2017年の1億2,671万人に対し、2040年には1億1,000万人程度まで減少する見込みです。また2040年頃には団塊ジュニアが65歳になり、高齢化率は2017年の27.7%に対し、2040年には35%超に上昇すると言われています。

そのため多くの企業が将来的に労働力不足に直面し、人材を採用する難易度が上がっていくことが予想できます。このような理由で、魅力的な職場づくりを行う企業が増えており、ウェルビーイング経営に注目が集まっているのです。

2.技術革新とそれに伴う働き方改革

2つ目の背景としては、「技術革新とそれに伴う働き方改革」が挙げられます。厚生労働省「雇用政策研究会報告書」では、「AIなどに代表される技術革新の急速な進展により、働き方も含めた社会のあり方が変容する可能性がある」と言われています。

このことから、リモートワークの広がりや終身雇用制度の崩壊など現在でも従来の働き方とは違う新しい働き方が生まれてきていますが、今後は益々多様な働き方が生まれてくると言えるでしょう。そのため、従業員一人ひとりに合わせた対応が企業に求められ、ウェルビーイング経営に注目が集まっています。

3.幸福度への注目度アップ

3つ目の背景としては、「幸福度への注目度アップ」が挙げられます。2012年から世界幸福度調査(World Happiness Report)の結果に基づき、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)は「世界幸福度ランキング」を発表しています。

2023年版では、世界146カ国の中で日本は47位でしたが、主要7カ国(ドイツ、カナダ、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本)の中では最下位でした。世界幸福度ランキングは以下6つの指標から算出されています。

  1. 国民一人あたりのGDP
  2. 社会的サポート(社会保障制度など)
  3. 健康寿命
  4. 人生選択の自由
  5. 他者への寛容さ
  6. 汚職や腐敗の認知

上位10カ国平均と比較すると、日本は「健康寿命」以外の5つの指標が低くなっています。「国民一人あたりのGDP」「人生選択の自由」「汚職や腐敗の認知」などは仕事との関連性も高いことから、企業においてもウェルビーイングへの取り組みに注目が集まっているのです。

4.SDGsの認知拡大

4つ目の背景としては、「SDGsの認知拡大」が挙げられます。SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことです。

SDGsでは17の目標が掲げられており、ウェルビーイングに関連するものもあります。中でも関連性が高いのは目標3と目標8です。

3: すべての人に健康と福祉を
原文
Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages
日本語訳
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

8: 働きがいも経済成長も
原文
Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all
日本語訳
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する

(引用元:外務省『JAPAN SDGs Action Platform』

目標3の原文には「well-being」という言葉が含まれていますし、目標8の「人間らしい雇用」とは「個人の権利や自己実現が保障された福祉の状態」と捉えることができます。このように、SDGsにおいてもウェルビーイングに関する言及があるため、ウェルビーイング経営に注目が集まっていると言えるでしょう。

5.新型コロナウイルスの影響

5つ目の背景としては、「新型コロナウイルスの影響」が挙げられます。コロナ禍になり、多くの企業がテレワークを導入し出しました。また働き方だけではなく、健康志向の高まりや地方移住など生活様式も大きく変化しました。

総務省の「コロナ後に求められる社会像」では、「一人ひとりのニーズに合ったサービスや正確な情報が提供されることで、画一的でない多様な幸せが実現されるような社会の形成が求められている」と言及されています。

これらのことから、世間的にウェルビーイングに注目が集まっており、企業側でもウェルビーイングを推進していこうという動きが高まっているのです。

ウェルビーイング経営と健康経営の違い

ウェルビーイング経営と混合されがちなのが「健康経営」です。健康経営とは、従業員の健康を重要な経営指標と捉え、健康の管理と増進に積極的に取り組むことです。ここではウェルビーイング経営と健康経営に具体的にはどのような違いがあるのか、「対象の違い」「目的の違い」という2つの指標でご紹介します。

対象の違い

対象
ウェルビーイング経営従業員の心身の健康

従業員の社会的な健康
=従業員の幸福
健康経営従業員の心身の健康

健康経営が対象とするのはあくまで「従業員の心身の健康」です。一方で、ウェルビーイング経営が対象とするのは従業員の心身の健康と社会的な健康の先にある、従業員の幸福です。

従業員の心身がたとえ健康であったとしても、やりがいや待遇などに不満を感じている状態であれば、幸福とは言えません。健康経営よりもウェルビーイング経営のほうがより広義の意味を含んでいます。

目的の違い

目的
ウェルビーイング経営パーパスの実現
健康経営企業価値の向上

健康経営を行う目的は「企業価値の向上」であり、ウェルビーイング経営を行う目的は「パーパスの実現」です。従業員の心身が健康になることで「生産性の向上」「離職率の低下」は図れるかもしれません。

しかし、それだけでは「パーパスの実現」は達成できないはずです。ウェルビーイング経営ではパーパスの実現に向けて従業員がいきいきと、モチベーション高く働ける環境づくりを行っていくことが重要です。

ウェルビーイング経営を行うメリット・効果

ウェルビーイング経営を行うメリットや効果について見ていきましょう。主には以下の5点です。

  1. ブランド価値の向上
  2. 従業員のエンゲージメント向上
  3. 生産性の向上
  4. 離職防止・定着率の向上
  5. 採用力強化

それぞれ詳しく紹介していきます。

1.ブランド価値の向上

1つ目のメリット・効果は、「ブランド価値の向上」です。ウェルビーイング経営に取り組んでいくことで、人的資本情報の開示やSDGsの推進に寄与します。経済産業省では、人的資本の定義を以下のように定めています。

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すこと

(引用元:経済産業省「人的資本経営」

昨今、「ESG投資への関心の高まり」を背景に、人的資本情報の開示やSDGsの推進はブランド価値を大きく向上させると言えます。つまりウェルビーイング経営に取り組むことも、ブランド価値の向上につながるのです。

2.従業員のエンゲージメント向上

2つ目のメリット・効果は、「従業員のエンゲージメント向上」です。厚生労働省では、ワーク・エンゲージメントを以下のように定義しています。

「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、 「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態として定義される

(引用元:厚生労働省「令和元年版労働経済の分析」

ウェルビーイング経営を推進していくことで、より働きやすい職場環境になり、かつ従業員が仕事に対してやりがいを感じるようになり、熱心に取り組むようになるでしょう。その結果、従業員のエンゲージメントが向上することが考えられます。

3.生産性の向上

3つ目のメリット・効果は、「生産性の向上」です。厚生労働省によれば、個人の労働生産性と企業の労働生産性の水準は、「働きがい」と正の相関関係があると言えます。また「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」「業務遂行に伴う裁量権の拡大」などを実施することで労働者の働きがいが向上する可能性があることを示唆しています。

これらのことから、ウェルビーイング経営を推進していけば、従業員の働きがいが向上し、かつ生産性の向上につながることがわかります。

4.離職防止・定着率の向上

4つ目のメリット・効果は、「離職防止・定着率の向上」です。厚生労働省によれば、「働きやすさ」の向上は、離職率や定着率を改善させる可能性があると言えます。

また「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「有給休暇の取得促進」「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」が働きやすさの向上に必要な要素であるとしています。これらのことから、ウェルビーイング経営を推進していけば、従業員の働きやすさが向上し、かつ離職防止・定着率の向上につながることがわかります。

5.採用力強化

5つ目のメリット・効果は、「採用力の強化」です。ウェルビーイング経営を推進していけば、ブランド価値が向上するため、自ずと採用力の強化にもつながります。また離職防止・定着率の向上も図れるため、人材不足の解消にも寄与するでしょう。

ウェルビーイング経営を行うデメリット

ウェルビーイング経営を行う前に、以下2つのデメリットがあることも把握しておきましょう。

  1. 会社の利益と相反してしまう可能性がある
  2. 効果がわかりづらい、測りづらい

デメリットをなるべく抑えられるようにどのようなことを意識すればいいのかもお伝えしていきます。

1.会社の利益と相反してしまう可能性がある

1つ目のデメリットは、「会社の利益と相反してしまう可能性がある」ことです。ウェルビーイング経営を推進していくことで、長期的に見れば「ブランド価値の向上」「従業員のエンゲージメント向上」などのメリットがあります。

しかし、短期的には売上につながらない施策を実施する必要が出てくることもあるでしょう。また、利益があまりない状態で、ウェルビーイング経営を行っていくことは困難です。そのため、会社の利益とウェルビーイング経営の推進のバランスを取りながら、取り組みを行っていくことが重要と言えるでしょう。

2.効果がわかりづらい、測りづらい

2つ目のデメリットは、「効果がわかりづらい」ことです。例えば、離職率や定着率が改善されたとしても、それが本当にウェルビーイング経営を推進したことによる効果なのかどうかははっきりとはわかりません。

また効果を測定し管理しようと思うと、かなりの時間も労力も必要です。外部に委託する場合は、コストもかかってきます。効果測定、数値管理などは社内で行うのか、その場合の担当者は誰にするのか、どのような方法で行うのかなどウェルビーイング経営に取り組む前にしっかりと決めておくようにしましょう。

ウェルビーイング経営を評価するための参考指標

ウェルビーイング経営を推進していく上で、「ウェルビーイング経営ができているのかどうか、何を指標に評価をすればいいかわからない」といった悩みも出てくるでしょう。その際に参考になる以下2つのモデルをここではご紹介します。

  • PERMAモデルのウェルビーイングの5つの要素
  • Gallup(ギャラップ)社によるウェルビーイングの5つの構成要素

PERMAモデルの5つの要素

PERMAモデルとは、「ポジティブ心理学の父または創始者」と呼ばれるマーティン・セリグマン博士が2011年に発表した、ウェルビーイングを高めるための5つの要素のことを指します。5つの要素は以下の通りです。

  1. Positive emotion:ポジティブな感情を持っていること
  2. Engagement:何事に対しても積極的に関わっていること
  3. Relationship:他者と肯定的で良質な関係性を築いていること
  4. Meaning:人生に意味・意義を見い出し、自覚していること
  5. Accomplishment:達成感を感じていること

5つの要素をすべて満たしていくことでウェルビーイングが高まるだけではなく、心理的な苦痛が軽減されるとも言われています。それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.Positive emotion:ポジティブな感情を持っていること

ポジティブな感情には、嬉しい、面白い、楽しい、感動、感激、感謝、希望などが挙げられます。これらの感情を味わうためにも、以下のようなことを実践してみるといいでしょう。

  • 趣味の時間を持つ
  • 気の合う友人と過ごす
  • 行ったことがない場所に行く
  • 体験したことがないことを行う
  • ワクワクするような将来を思い描く
  • 上手くいったこと、できたことを振り返る

一日の中に少しでもポジティブな感情で過ごす時間を作れると、ウェルビーイングが高まっていきます。

2.Engagement:何事に対しても積極的に関わっていること

何事に対しても積極的に関わっていることとは、つまり時間を忘れて何かに没頭するということ。フロー状態、ゾーンに入っている状態とも言えます。フロー理論の提唱者であるミハイ・チクセントミハイ博士は、フロー状態に入るための条件として以下の7つを挙げています。

原文
1.Completely involved in what we are doing — focused, concentrated.
日本語訳
1.作業に完全に入り込み集中している。

原文
2.A sense of ecstasy–of being outside everyday reality.
日本語訳
2.エクスタシーの感覚。日常や現実の外にいる感覚がある。

原文
3.Great inner clarity–knowing what needs to be done, and how well we are doing.
日本語訳
3.頭がクリア。何をする必要があるのか​​、どうすれば上手くいくのか、どれだけうまくやっているのかがわかっている

原文
4.Knowing that the activity is doable–that our skills are adequate to the task.
日本語訳
4.自分ができる作業であること、自分にはタスクを完了するスキルがあることを知っている。

原文
5.A sense of serenity–no worries about oneself, and a feeling of growing beyond the boundaries of the ego.
日本語訳
5.落ち着いている。心配することがなく、成長している感覚がある。

原文
6.Timelessness–thoroughly focused on the present, hours seem to pass by in minute.
日本語訳
6.時間を忘れている。数時間が数分に感じられる。

原文
7.Intrinsic motivation–whatever produces flow becomes its own reward.
日本語訳
7.内発的動機がある。それをやっていること自体が楽しい。

(引用元:Mihaly Csikszentmihalyi: Flow, the secret to happiness | TED Talk

これらのことから重要なポイントは「明確な目標を持つこと」「自信があり、かつ周りから正当な評価を得られること」「内発的動機があること」「成長できる実感があること」などが考えられます。こういった作業ができる時間を一日の中に少しでも持つようにすると、ウェルビーイングが高まっていくでしょう。

3.Relationship:他者と肯定的で良質な関係性を築いていること

「他者と肯定的で良質な関係性を築いている」かどうかは、信頼し合えるか、助け合えるか、意思疎通を図ることができるかなどで判断できます。家族やパートナーといった長い付き合いのある間柄だったとしても、必ずしも良質な関係性とは言えません。

また知り合いが多ければ多いほどいいというわけでもありません。ウェルビーイングを高めるためには関係性を築いてきた期間や関係性のある人数よりも、関係性の深さ、強さが重要と言えるでしょう。

4.Meaning:人生に意味・意義を見い出し、自覚していること

「人生に意味・意義を見出し、自覚していること」とは、自分軸を定めるということ。何を大切にし、何に価値を見出し、何を求め、何をするのか。他人と比較する必要はありません。

相対的な軸ではなく、絶対的な軸を明確にし、その軸に沿った生き方をしていくとウェルビーイングは高まると言えるでしょう。

5.Accomplishment:達成感を感じていること

「達成感」は何かを成し遂げることで得られる満足感や高揚感のことを指します。達成感を得るために必要になるのは、適切な目標です。

高すぎる目標だと、いつまで経っても成し遂げられないことになりかねません。一方で、何も努力しないでも達成できてしまうような低すぎる目標だと満足感や高揚感は得づらくなります。「難易度」「時間」「努力」の3つのバランスがとれた目標設定を心がけると、より「達成感」を得られやすくなるでしょう。

Gallup(ギャラップ)社によるウェルビーイングの「5つの構成要素」

アメリカの世論調査及びコンサルティングを行うGallup社では、ウェルビーイングの状態は以下の5つの構成要素で成り立っていると提唱しています。

  1. Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング)
  2. Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング)
  3. Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング)
  4. Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング)
  5. Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング)

Gallup社によるとこの5つの要素は、信仰や文化、国籍を問わず、共通しているとのこと。また5つすべての要素を少しずつ向上させていく必要があることも強調しています。

(引用元:The Five Essential Elements of Well-Being

1.Career well-being(キャリア ウェルビーイング)

Career well-beingとは、仕事や家事、子育て、勉強など毎日行う事柄が好きである状態のことを意味しています。例えば働いている人であれば、自分の仕事が好きで、集中して取り組めていれば、Career well-beingが達成できている状態と言えるでしょう。

2.Social well-being(ソーシャル ウェルビーイング)

Social well-beingとは、良好な人間関係が築けている状態のことを意味しています。信頼できる、愛情を持って接し合うことができる人が少数でも周りにいれば、Social well-beingが達成できていると判断して問題ないでしょう。

3.Financial well-being(フィナンシャル ウェルビーイング)

Financial well-beingとは、安定した経済状況のことを意味しています。これは単に収入が高い状態のことを指しているわけではありません。効率的、効果的に自分の資産を管理、活用している状態のことを指しています。お金を稼ぐことだけではなく、その稼いだお金を上手く守る、活用することが重要です。

4.Physical well-being(フィジカル ウェルビーイング)

Physical well-beingとは、心身が健康である状態のことを意味しています。病気でなければ達成できているわけではありません。仕事や家事など日常的に行うことを十分遂行できるだけのエネルギーがあれば、達成できていると言えます。

5.Community well-being(コミュニティ ウェルビーイング)

Community well-beingとは、自分の住む地域社会と深いつながりがある状態のことを意味しています。会社、家族、友人、学校など自身が所属するコミュニティが安心できるものである、好きである、幸せであると感じていれるかどうかが重要です。

ウェルビーイング経営に取り組んでいる企業事例

ウェルビーイング経営に取り組んでいる企業は世の中に数多くあります。ここでは代表的な5つの企業の事例をご紹介します。

  1. 株式会社丸井グループ
  2. 楽天グループ株式会社
  3. トヨタ自動車株式会社
  4. Google
  5. 積水ハウス株式会社

1.株式会社丸井グループ

企業名株式会社丸井グループ
参考ページ人と社会のしあわせを共に創る「Well-being経営」

株式会社丸井グループでは、ウェルビーイング経営を以下のように定義しています。

丸井グループのめざす「Well-being経営」は、「Well-being」の視点を通じて新しい価値を創り、社会全体を「しあわせ」あふれる場所にしていくことです。「丸井グループのサービスによって心が豊かになる」。

(引用元:人と社会のしあわせを共に創る「Well-being経営」

また丸井グループでは「活力のWell-being」と「基盤のヘルスケア」の2軸で、ウェルビーイング経営を推進しています。「活力のWell-being」では、「女性の健康問題を考えるWell-beingイベントの開催」「トップ層へのアプローチ『レジリエンスプログラム』」などを実施、「基盤のヘルスケア」では、「『禁煙外来』やメタボリックシンドローム防止のための保健指導」「女性の健康検定」などを実施しています。

2.楽天グループ株式会社

企業名楽天グループ株式会社
参考ページ健康・安全・ウェルネス

楽天グループ株式会社は、楽天健康宣言 「Well-being First 」を掲げています。

“Well-being First”
楽天は、従業員の心身の健康および社会的なウェルビーイングの向上を目指します。
そして、イノベーションを通じて人々と社会をエンパワーメントします。

(引用元:健康・安全・ウェルネス

具体的には以下のような施策を行い、ウェルビーイング経営を推進しています。

  • 社内ウォークラリーイベント
  • InBody(体成分分析装置)イベント
  • 女性特有の健康課題のセミナー
  • 心の健康状態及び職場全体のストレス傾向の把握を目的とした「ストレスチェック」
  • 健康経営ワーキンググループ勉強会

これらの取り組みは、CWO(Chief Well-being Officer)のリーダーシップのもと、ウェルネス部を中心にグループ企業が連携し企画、実施を行っています。

トヨタ自動車株式会社

企業名トヨタ自動車株式会社
参考ページ第1回Emotional Well-Being研究会 実施レポート

トヨタ自動車は「幸せの量産」をミッションに掲げ、「Emotional Well-Being研究会」を立ち上げています。トヨタ自動車未来創生センター・株式会社豊田中央研究所・Toyota Research Institute(TRI)の研究者が集まって「幸せとは?」、「Well-Beingとは?」について議論し、その内容を外部にも公開しています。

またトヨタ自動車健康保険組合では健康に関するアンケート調査を実施。従業員が抱える健康課題を解消すべく「肩こり解消チャレンジ」や「お昼休憩ウォーキングデー」などの施策を行っています。

ユニリーバ

企業名ユニリーバ・ジャパン
参考ページワーク・イン・ライフ

ユニリーバ・ジャパンでは、働く場所や時間の制限をなくして柔軟な働き方ができる「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という制度を実施しています。またワーケーションを推進する「地域 de WAA」や副業やインターンシップで参加できる「WAAP」という社外向けの施策も展開しています。

ユニリーバ・ジャパンによれば「WAA」の制度を導入したことで、以下のような社員の感想が寄せられてきているとのこと。

制度導入から10か月後(2017年4月)の社員アンケートでは、回答者の92%が一度でもWAAを実施しており、75%が「生産性が上がった」、33%が「幸福度が上がった」と答えました。

(引用元:ワーク・イン・ライフ

また「WAAP」で副業を経て採用につながったケースもあるようです。

Google

企業名Google
参考ページWork @ Google 20%

Googleは、ウェルビーイング経営のためにさまざまな施策を取り入れている企業です。代表的なものとして「20%ルール」が挙げられます。

業務時間の内の 20% を「普段の業務とは異なる」業務( Google においては新規事業立案 ) にあてて良いという制度です。今やデジタルインフラの一種となりつつある Gmail、Google マップ、Google ニュースなどといったサービスは、この画期的な制度によって生み出されてきました。
(引用元:Work @ Google 20%

Googleでは「20%ルール」を社内だけに閉じず、全国の自治体やパートナー企業を Google社員として受け入れ、週に1日から2日働いてもらっています。参加者は、実務を通じて「デジタルスキル」や「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を学ぶことが可能です。

そのようにして、日本全体の企業の働き方改革と生産性向上を支援しています。

ウェルビーイング経営に関するその他の疑問

最後にウェルビーイング経営に関するよくある疑問点をまとめておきます。

  • ウェルビーイング経営が学べるおすすめの本は?

ウェルビーイング経営が学べるおすすめの本は?

ウェルビーイング経営が学べるおすすめの書籍は以下の2冊です。

  1. ウェルビーイング経営の考え方と進め方
  2. ウェルビーイング経営 社員の笑顔が会社を成長に導く

ウェルビーイング経営の考え方と進め方』は武蔵大学経済学部経営学科の森永雄太教授の著作です。理論の説明にとどまらず、先進事例の紹介や実践方法、浸透方法などウェルビーイング経営の全体像がわかる一冊となっています。

ウェルビーイング経営 社員の笑顔が会社を成長に導く』は働き方を変えるDXサービスを運営する株式会社PHONE APPLIの著作。ウェルビーイングの第一人者と言われる慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科前野隆司教授も推薦する一冊です。

ウェルビーイング経営の課題

次に、企業がウェルビーイング経営に取り組むことでどのような課題が生まれるのでしょうか?

ウェルビーイング経営の一般的な3つの課題

実際にウェルビーイング経営に取り組んだ経験のある企業や団体の事例を見ると、大きく下記3つの課題があることがわかります。

  1. 経営層の意識改革
  2. 従業員の理解と協力
  3. 効果の測定と改善

1.経営層の意識改革

前述のようにウェルビーイング経営とは、従業員一人ひとりが、肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされるように、組織の環境を整えていく経営手法のことです。そのため、まずは経営層がウェルビーイング経営について理解を深めること、そして経営戦略として位置づけることが重要です。

従来の経営手法は、利益を追求したり生産性を向上させることに重きをおいているため、一般的に従業員のウェルビーイングを重要視しない傾向があります。そのため、まずは経営層の意識改革が重要になるのです。

2.従業員の理解と協力

次に従業員の理解と協力を得ることです。

ウェルビーイング経営を実現するためには、経営層が理解したところで従業員の理解と協力がなければ改革は進みません。従業員がウェルビーイング経営の目的やメリットを理解し、積極的に取り組んでもらうことではじめて進めることができます。また、従業員がウェルビーイング経営に積極的に取り組めるよう、フレックスタイム制やテレワークなどのワークバランスを整える制度の導入や、健康診断やメンタルヘルスの相談などの制度を整えることも重要であり、課題といえます。

3.効果の測定と改善

最後に、ウェルビーイング経営の効果測定と改善です。従業員の健康状態(心身ともに)や、仕事に対する満足度調査などを実施してウェルビーイング経営の指標を定め、定期的に計測し、結果をもとに改善を行います。かつ、これを継続的に実施していく必要があり時間も手間もかかるため、課題となっているようです。

弊社(スカイベイビーズ)がウェルビーイング経営に取り組んで感じた4つの課題

弊社でもウェルビーイング経営に今まさに取り組んでいますが、現時点で課題と感じていることは次の4つです。

  1. ウェルビーイングの見える化が難しい
  2. 体制を整えるのに時間がかかる
  3. 効果が出始めるまで時間がかかり、かつ検証が難しい
  4. 心理的安全性の担保が必要となる

上記の一般的な課題にある内容と似ている部分もあれば、取り組んだからこそ見えてきたより具体的な課題もあります。

それぞれの課題別の詳細と、その課題に対して実践している取り組みの事例は下記記事「ウェルビーイング経営の課題とは?」にまとめていますので合わせてお読みください。

ウェルビーイング経営を行うには自社の課題を見つけることが大切

ウェルビーイング経営に取り組む前に大切なことは、自社の課題を見つけること。従業員一人ひとりの価値観や幸せの指標、働きがいが何かを理解し、寄り添い、安心して働ける環境を整えることが必要です。

他者事例も参考にしつつ、自社の課題を解決していけるような施策を考え実行し、ウェルビーイング経営を推進していきましょう。

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