「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


ジョブクラフティングの具体例は、次の3種類に分けると理解しやすくなります。
本記事では、職種別の具体例に加え、企業が自ら発信している国内外7社の実例と、そこから見えた成功のポイントを紹介します。
監修は、ウェルビーイング経営を支援し、幸福学研究の第一人者である前野隆司氏とともにウェルビーイング・サーベイ「ソラミドWell-being」を開発した株式会社スカイベイビーズです。
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株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。
ジョブクラフティングは、仕事の中身を変える作業クラフティング、関わる人や関わり方を変える人間関係クラフティング、仕事の意味を捉え直す認知クラフティングの3種類に分けられます。研究者は、3つを組み合わせたときに最も良い結果が得られると述べています。
| 種類 | 何を変えるか | 身近な例 |
| 作業クラフティング | 仕事の量・範囲・進め方 | 定型作業を仕組み化し、空いた時間を得意な業務に充てる |
| 人間関係クラフティング | 関わる相手と関わり方 | 他部署の担当者と定期的に情報交換する |
| 認知クラフティング | 仕事の目的や意味の捉え方 | 自分の作業が顧客にどう役立つかを考え直す |
なお、こうしたジョブクラフティングの3つの種類やより詳しい解説は下記記事でお読みいただけます。
※関連記事:ジョブクラフティングとは?意味と3つの種類、効果、やり方を具体例でわかりやすく解説
どの職種でも、3つの種類のクラフティングは小さな工夫から始められます。職種ごとの例を一覧にまとめましたので、自分の仕事に近いものから参考にしてください。
| 職種 | 作業クラフティング | 人間関係クラフティング | 認知クラフティング |
| 営業職 | 提案書のひな形を整え、ヒアリングに時間を使う | 導入後の顧客の様子を担当者に聞く | 売ることを、顧客の課題を解くことと捉える |
| 事務・バックオフィス | 繰り返しの入力作業を仕組み化する | 申請者に困りごとを聞き、手順を改善する | 正確な処理を、社員が本業に集中できる土台と捉える |
| エンジニア | 運用の手作業を自動化し、改善に時間を回す | 営業やサポートと不具合情報を共有する | コードを、顧客の業務を支える仕組みと捉える |
| 医療・介護職 | 記録の書式を見直し、利用者と話す時間を確保する | 多職種で気づきを共有する | 日々のケアを、その人らしい暮らしを支える仕事と捉える |
| 販売・接客職 | 得意分野を生かした売り場づくりを提案する | 常連客の好みを覚え、会話のきっかけにする | 商品説明を、お客様の選択を助ける仕事と捉える |
表の例は、3つの種類の定義をもとに当社が作成したものです。
営業職では、売ることそのものではなく、顧客の課題を解くことを仕事の目的に置き直すと、3つの工夫が考えやすくなります。提案書のひな形を整えて準備時間を減らし、その分をヒアリングに使うのは作業クラフティングの例です。
導入後の顧客の様子をカスタマーサクセス(製品を導入した顧客の活用を支援する担当者)に聞き、次の提案に生かすのは人間関係クラフティングの例です。HRテック企業の株式会社ヒューマネージも、営業とカスタマーサクセスのメンバーを中心にジョブクラフティング研修を実施しています。
事務・バックオフィスでは、自分の仕事を受け取る相手を意識することが、工夫の出発点になります。株式会社ヒューマネージは、上司の考え方の流れを予想して決裁を得やすい資料をつくることを、ジョブクラフティングの例として挙げています。
繰り返しの入力作業を仕組み化する作業クラフティングも、取り入れやすい工夫です。経費精算のチェックを、社員が安心して本業に集中できる土台づくりと捉える認知クラフティングもあります。
エンジニアのジョブクラフティングは、手作業の自動化などで生まれた時間を、関心のある改善や学びに振り向ける形が典型です。
マニュアル作成・共有サービスを提供する株式会社スタディストのエンジニアは、顧客が製品を使うまでに必要な仕事はすべて自分の仕事と捉え、マニュアル作成や不具合対応にも担当を広げました。業務が増えすぎた時期には運用の手作業を自動化して負担を減らし、社内の勉強会も始めています。
医療・介護職では、負担を減らす工夫を、仕事を広げる工夫とセットで考えることが大切です。米国の大学研究者が複数のメタ分析(多数の研究結果をまとめて分析する手法)を整理した資料によると、仕事を広げる方向のクラフティングは仕事の満足度やパフォーマンスの高さと結びつきます。
一方で、負担を減らすだけのクラフティングは、満足度の低さや離職意向の高さと結びつく傾向があるとされています。同じ資料では、同僚の支えや前向きなリーダーシップがある職場ほど、仕事を広げるクラフティングが起きやすいとも紹介されています。
たとえば、記録の書式を上司と相談して見直し、浮いた時間を利用者と話す時間に充てる工夫があります。負担を減らした分をやりがいのある仕事に振り向けることで、支える側のウェルビーイング(心身ともに良い状態)を保つ工夫にもなります。
販売・接客職は、お客様との関わり方を工夫する人間関係クラフティングの余地が大きい仕事です。常連のお客様の好みを覚えて会話のきっかけにしたり、得意分野を生かした売り場づくりを提案したりする工夫が身近な例です。
商品説明を、お客様が納得して選べるよう助ける仕事と捉え直せば、認知クラフティングにもなります。お客様からの感謝を直接受け取りやすい職種なので、人間関係クラフティングの例で紹介した「ありがとう!」因子を実感しやすい点も特徴です。
▼この章の参照元
ジョブクラフティングを説明するときによく取り上げられるのが、清掃の仕事の例です。作業の手順が決まっていて裁量が小さく見える仕事でも、捉え方や関わり方を変えると、仕事の意味が大きく変わります。
東京ディズニーリゾートの清掃キャストは、清掃を「ゲストの楽しい一日をつくる仕事」と捉えている点で、認知クラフティングの代表例としてよく知られています。オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートでパークの清掃を担うのは、カストーディアルキャストと呼ばれるスタッフです。
公式ブログでは、カストーディアルキャストが清掃に加えて、ゲストの質問に答えたり写真撮影を手伝ったりしながら、ゲストの幸せづくりを手伝う役割も担っていると紹介されています。
閉園後の清掃を担うナイトカストーディアルについても、オリエンタルランドグループで清掃や警備を担う株式会社MBMは、その仕事を単なる清掃ではなく、ゲストが1日を楽しむための準備だと紹介しています。同社によると、ナイトカストーディアルがゲストから直接感謝されることはありません。
それでも、自分たちの仕事がゲストの笑顔につながっていると実感できることが、この仕事のやりがいだとしています。
ジョブクラフティングという考え方は、病院の清掃スタッフの研究から生まれました。ミシガン大学のジェーン・ダットン氏と、現在はイェール大学教授のエイミー・レズネスキー氏は、米国中西部の大きな病院で働く清掃スタッフを調査しました。
スタッフは、限られた時間で多くの部屋を掃除しなければならず、裁量の小さい仕事に就いていました。それでも、患者や家族を助ける小さな工夫を重ね、自分を医療を支えるチームの一員と捉えていました。この研究は2001年に発表されました。
研究者が紹介した別の清掃スタッフの例には、3つの工夫がそろっていました。清掃を患者の回復を支える仕事と捉え直し、回復に役立つ作業に特に力を入れ、支えが必要な患者と多く関わるようにしていました。
▼この章の参照元
国内外7社の例を見ると、ジョブクラフティングは研修、制度、個人の実践、効果を確かめる実験など、さまざまな形で取り入れられています。まず一覧で全体像をつかみ、自社に近い形の例から読み進めてください。
| 企業名 | 国 | 業種 | 取り組みの形 | 主な情報源 |
| 株式会社ヒューマネージ | 日本 | HRテック | 研修型(適性検査と連動) | 自社採用サイトのブログ |
| 株式会社名優 | 日本 | 医療機器の輸入販売 | 研修型(全社勉強会に組み込み) | Wantedly |
| 株式会社スタディスト | 日本 | クラウドサービス開発 | 個人の実践型 | Wantedly、講演レポート |
| クラスメソッド株式会社 | 日本 | クラウド技術支援 | 情報発信型 | 自社技術ブログ |
| TestGorilla B.V. | オランダ | 採用向けスキル評価サービス | 制度型(能力開発予算) | 自社ブログ |
| Logitech International S.A. | スイス | PC周辺機器メーカー | 研修型(面談とワークショップ) | ミシガン大学の発表、ポッドキャスト |
| Google LLC | 米国 | インターネット関連事業 | 実験型(効果を検証) | スタンフォード大学の記事、Fast Company |
各社の出典は、それぞれの事例の中に記載しています。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社ヒューマネージ |
| 参考URL | https://www.i-note.jp/humanage/recruit/daily/250106d/index.html |
| 業種 | HRテック(採用管理システム、適性検査などの提供) |
| 社員数 | 231名(2026年4月現在、契約社員・パート社員を含む) |
| 概要 | 適性検査と連動した研修 |
| 約130名が一斉に参加 | |
| 傾向を読み解き合う対話 |
採用管理システムや適性検査、健康管理システムを企業に提供しているヒューマネージは、自社の適性検査を使ったジョブクラフティング研修を自社の社員向けに実施しました。その様子は、社員の日常を伝える採用サイトのブログで公開されています。
ヒューマネージが実施したのは、社員一人ひとりが自分のジョブクラフティングの傾向を知ったうえで、仲間と対話する3時間の研修です。
2024年12月、ビジネススキル研修やキャリア研修を手がけるファインド・シー社を講師に迎え、カスタマーサクセス(製品を導入した顧客が使いこなせるよう支援する職種)と営業を中心に約130名が参加しました。
研修は講義とグループワークを交互に繰り返すオンライン形式で進みました。グループワークでは、適性検査(設問への回答から個人の特性を測るテスト)の結果をもとに各自の仕事への工夫の傾向を読み解き合い、実践している工夫を紹介し合い、仕事の意義を言葉にし合いました。
同社によると、この研修は、参加者が自分のジョブクラフティングの傾向を事前に把握したうえで臨めるように設計されています。
研修を通じて、参加者は自分の仕事と自分自身への理解を深めています。ブログの筆者は、長いと思っていた3時間があっという間に過ぎ、班のメンバーの話を聞くことで自分のことも見えてきたと振り返っています。
講義では、人の役に立つことが本人の幸福感を高めるという研究も紹介されました。筆者は研修後も、日々の仕事の中でクラフティングを続けたいと述べています。同社は、ジョブクラフティングとエンゲージメント(仕事に熱意をもって没頭している状態)の関係も自社で分析しています。
2022年に同社のエンゲージメント・サーベイ「Qraft」(社員の仕事への熱意や没頭度を測るアンケート調査)に回答した人のうち、18,522名分のデータを分析しました。その結果、ジョブクラフティングの度合いが高い人ほどエンゲージメントも高いという関係が見られたと報告しています。
この例から学べるのは、顧客に提供している仕組みを、まず自社の社員で体験したことの強みです。自社の製品やサービスを自社で使うことはドッグフーディングと呼ばれます。
提案する側が効果を実感していれば、顧客への説明にも説得力が生まれます。また、適性検査で各自の傾向を見える化してから対話に入る流れは、聞いて終わりになりがちな研修を、翌日からの具体的な行動につなげる工夫として参考になります。
最初の対象を顧客と接する職種にした点も、仕事の意義を実感しやすい部署から始める進め方として取り入れやすいでしょう。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社名優 |
| 参考URL | https://sg.wantedly.com/companies/company_6305404/post_articles/908107 |
| 業種 | 医療機器の輸入販売(病院の中央材料室、手術室・ICU、耳鼻咽喉科向けの機器) |
| 社員数 | 非公開(同社は自社を、互いの顔が見える小さな会社と紹介) |
| 概要 | アルバイト含む全社員参加 |
| 大学の専門家による研修 | |
| カードゲームで疑似体験 |
名優は、欧米の医療機器を輸入して国内の医療機関に販売している、千葉県八千代市の会社です。創業30年の節目に開いた全社勉強会で、アルバイトを含む全員がジョブクラフティング研修に取り組みました。
名優は、自社製品が病院でどう役立っているかを知る時間と、ジョブクラフティング研修を組み合わせて実施しました。同社は半期に一度、メイト(アルバイト)を含む全社員が集まる勉強会を開いています。
2023年10月の回では、まず営業担当者が、病院の中央材料室(使用済みの医療器具を洗浄・滅菌し、次の患者に安全に使える状態に戻す部署)で自社製品がどう使われているかを、写真を交えて紹介しました。
続いて、東京大学大学院のデジタルメンタルヘルス講座から櫻谷あすか先生を講師に招き、約2時間の研修を行いました。研修では、仕事のやり方、周りの人との関わり方、考え方という3つの工夫を学びました。
その後、4〜5名のグループに分かれ、お悩み相談のラジオ番組という設定のカードゲームを体験しました。相談を受ける役の参加者が、相談者にワクワクする、できそうだと思ってもらえる助言を出し合うゲームです。
研修は終始笑い声が絶えないほど盛り上がりました。講師からは、ここまで乗り気でゲームに取り組む会社は珍しいと評されています。
同社が研修に込めた狙いは、相手やお客様のことを考えて主体的に働くメンバーが多いという自社の強みを、さらに伸ばすことでした。勉強会の冒頭では社長が、患者と医療者がともに幸せだと思える医療を実現したいというビジョンを語っています。
同社は、部署にかかわらず目の前の業務はすべてこのビジョンにつながっていると考えています。研修は、このビジョンを全員で確認した同じ日の流れの中で行われました。
この例の学びどころは、研修の直前に、自分たちの製品が現場でどう役立っているかを全員で共有した構成です。仕事の意味を捉え直す認知クラフティングは、顧客の姿が見えていないと考えにくいものです。
普段顧客と接しない部署のメンバーにも現場の様子を伝えたことで、その土台ができています。同社は、目の前の業務がどの顧客にどう役立っているかについて、全員が自分なりの答えを持つチームを目指していると述べています。
カードゲーム形式で恥ずかしさを和らげた点や、アルバイトまで対象にした点も、少人数の会社が全員で取り組むときの参考になります。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | 株式会社スタディスト |
| 参考URL | https://www.wantedly.com/companies/studist/post_articles/121746 |
| 業種 | BtoB向けクラウドサービスの開発、業務改善の支援サービスなど |
| 社員数 | 296名(2026年5月時点) |
| 概要 | 顧客視点で担当範囲を拡大 |
| 宣言して改善を推進 | |
| 社内勉強会を継続開催 |
スタディストは、マニュアル作成・共有サービス「Teachme Biz」などを企業に提供するクラウドサービス企業です。この例は研修ではなく、一人のエンジニアが自ら仕事の範囲を作り変えていった個人の実践です。
同社の採用ストーリーと、本人が登壇した講演のレポートで紹介されています。
北野勝久氏は、顧客に価値を届けるまでに必要な仕事はすべて自分の仕事だと捉え、担当範囲を自ら広げていきました。担当したのは開発だけではありません。
リリース前のユーザーマニュアル作成や社内説明会、サポートチームと連携した不具合への対応、さらには知人の経営者への製品紹介まで手がけています。
業務が増えすぎた時期には、技術顧問と一緒に現状を整理したことをきっかけに、SRE(システムを安定して動かし続けるための運用を、ソフトウェア開発の手法で設計する考え方)に出会いました。その後は、作業の自動化などで負担を減らしていきました。
社内では、皆が必要だと感じながら手をつけていなかった課題について「やります」と宣言してプロジェクトにし、周囲の協力を得ながら進めています。
北野氏の取り組みは社内で正式に評価され、全社総会で、同社のビジョン「知的活力みなぎる社会をつくる」にちなんだ社内表彰を受けました。その後は執行役員VPoE(開発組織の運営や採用を担う責任者)となりました。
社外でも、技術コミュニティの勉強会や、SREをテーマにした国内初のカンファレンスを主催しています。社内でも2週間に1回の勉強会を始め、講演の時点でも続いています。
本人は講演で、自分の仕事を自ら形づくり変えていく行動を実践できている人ほど満足度が高いと語っています。
この例から学べるのは、個人のクラフティングを組織が正式に認める仕組みの大切さです。宣言した取り組みがプロジェクトとして扱われ、成果がビジョンにちなんだ賞で表彰されます。
それによって、自発的な行動が個人の勝手な仕事ではなく、会社の仕事として位置づけられています。また、仕事を広げて負担が増えたときに、業務の進め方そのものを見直して作業を減らしている点も見逃せません。
作業クラフティングには、仕事を増やす工夫だけでなく減らす工夫もあることがわかります。本人は会社の良さとして、トラブルを個人の責任にせず仕組みで解決しようとする姿勢と、改善提案が通りやすい社風を挙げています。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | クラスメソッド株式会社 |
| 参考URL | https://dev.classmethod.jp/articles/enjoy-work-by-job-crafting/ |
| 業種 | クラウド(AWS等)の技術コンサルティング・開発・運用、データ分析基盤の構築、アプリ開発など |
| 社員数 | 単体560名、グループ全体840名(2025年10月現在) |
| 概要 | EX担当部署が社員へ発信 |
| 3つの視点ごとに具体例 | |
| 組織と個人の約束を明文化 |
クラスメソッドは、AWSなどのクラウドの導入・運用支援を手がけるIT企業です。
同社の社員が執筆・運営する技術ブログ「DevelopersIO」で、従業員体験(EX:社員が働く中で得る経験全体)の向上を担う部署の社員が、ジョブクラフティングの考え方と行動例を発信しました。
2022年9月、EX向上をミッションとするエンジニアリング統括室の田部井勝彦氏が、自社の技術ブログで記事を公開しました。記事では、ジョブクラフティングを、社員が自分で仕事の進め方を整え、変えていくプロセスとして紹介しています。
そのうえで、3つの視点ごとに具体的な行動例を挙げています。仕事の捉え方を変える例として挙げているのは、日々の作業と最終的な価値のつながりを捉え直すことや、面倒な作業にゲームの要素を加えることです。
仕事の内容を変える例には、自己希望での人事異動、社内の横断プロジェクトへの参加、業務改善の対象を自分で見つけて主導することが含まれています。
人との関わりを変える例としては、刺激をもらえる人と自らつながることや、リモートワーク中心の会社でもときどき対面で会うことを示しています。
この発信の成果は、ジョブクラフティングを社員の自由に任せるだけで終わらせず、組織と個人の間の約束事として言葉にしたことです。記事は、仕事である以上、事業の成果とのつながりが欠かせないと述べています。
そのうえで理想として示しているのが、組織や上司は成果を出す前提なら進め方を本人に任せ、社員は任されたうえで成果を出すという関係を、互いに保つことです。
組織の役割としては、過度な制約を増やさないこと、細かく管理しすぎないこと、社員を大人として信頼することを挙げています。筆者はその後も同じブログで、従業員エンゲージメントを支える要素などをテーマにした記事を発信し続けています。
人事部ではなく、従業員体験を専門に扱う部署が推進役を担っている点が特徴です。社員自身が書き手でもある技術ブログで発信したため、研修を開かなくても多くの社員に考え方を届けられます。
さらに記事は、ジョブクラフティングは解釈を誤ると身勝手な働き方になりかねないと先に示し、事業成果とのすり合わせをセットで伝えています。この伝え方は、自社で導入するときのコツとしてそのまま使えます。
取り組みの出発点として、自己理解(自分の価値観や好みを知ること)と、取り組むべきことを自分で判断して周囲を巻き込むセルフリーダーシップを挙げている点も参考になります。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | TestGorilla B.V. |
| 参考URL | https://www.testgorilla.com/blog/job-crafting/ |
| 業種 | 採用向けのスキル評価・人材発掘プラットフォームの提供 |
| 社員数 | 非公開(2019年にオランダ・アムステルダムで創業) |
| 概要 | 年収3%の能力開発予算 |
| 上司の承認だけで受講可能 | |
| 制度で自律性を後押し |
TestGorillaは、応募者のスキルを測るテストなどを企業に提供する、オランダの採用支援サービス企業です。自社ブログの記事の中で、社員のジョブクラフティングを支える自社の制度を紹介しています。
TestGorillaは、社員一人ひとりに、年収の3%にあたる能力開発予算を付与しています。社員は上司の承認さえ得れば、希望する研修にこの予算を使えます。
同社はこの制度を、会社が方向づけをしながら進めるジョブクラフティングを支える仕組みとして位置づけています。
同社はこの制度の効果として、ジョブクラフティングがもたらす自律性を、社員が保ち続けられることを挙げています。
さらに、仕事の中身を変える作業クラフティングが難しい社員にとって、学びや成長の機会を自ら求める能力開発のクラフティングが、ジョブクラフティングを始める入口になると説明しています。
社内異動の仕組みと組み合わせることで、社内にさまざまなキャリアの道があると社員に示せる点も、同社が挙げる利点です。
この例の学びは、研修ではなく予算という制度でジョブクラフティングを後押ししている点です。
同社は記事の中で、仕事の裁量が小さい職種の社員にジョブクラフティングを促すと、同じ給与のまま責任だけが増えると受け止められかねないことに触れています。また、会社の支えがないまま取り組むと、燃え尽きにつながりうることも指摘しています。
仕事内容そのものではなく、学びの機会から始める同社の方法は、こうした職種を含めて全社で取り組みたい企業にとって取り入れやすい入口になります。
社員がジョブクラフティングを進める具体的な手順は個人で始める方法と、組織として導入するときの進め方をまとめた、下記記事をどうぞ。
※関連記事:ジョブクラフティングのやり方|個人の4ステップと組織での導入手順を研究と実例で解説
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Logitech International S.A.(日本ではロジクールのブランドで展開) |
| 参考URL | https://michellemcquaid.libsyn.com/mppw07-jessica-amortegui-on-job-crafting |
| 業種 | ソフトウェアを組み込んだPC周辺機器、会議用機器、ゲーミング機器などの設計・販売 |
| 社員数 | 約7,300名(2026年3月期の年次報告書による) |
| 概要 | 個人向けクラフティング面談 |
| 2日間のワークショップ | |
| 経営陣の賛同を得て展開 |
Logitechは、1981年にスイスで創業した、PC周辺機器などをつくるメーカーです。人材開発部門の主導でジョブクラフティングを組織に取り入れ、2016年にミシガン大学の表彰制度で最優秀賞を受賞しました。
Logitechでは、学習・人材開発担当シニアディレクターのJessica Amortegui氏が中心となり、社員一人ひとりに向けたジョブクラフティングのセッションを実施しました。
あわせて、最高の状態の自分を言葉にするワーク、質の高い人間関係を築くワーク、感謝の気持ちを育むワークも行っています。
同氏はポジティブ心理学(人の強みや前向きな感情を研究する心理学の分野)の実践を学ぶ2日間のワークショップを開発し、経営陣とチームの賛同を得たうえで展開しました。Logitechは、研究者が開発したジョブクラフティングの演習ツールを導入した企業の一つとしても紹介されています。
Logitechの取り組みは2016年、ミシガン大学ロス経営大学院の研究センターが主催するコンテスト「Positive Business Project」で最優秀賞に選ばれました。このコンテストは、働く人の力を引き出す企業の取り組みを毎年表彰するものです。
審査は、ポジティブな経営の考え方に沿っているか、他社でも再現できるか、インパクトはどうかの3つの基準で行われます。Logitechが評価されたのは、社員が仕事に活力を得て、自分の情熱に気づき、一人ひとりが生み出せる影響に目覚めるようなコミュニティをつくったことでした。
Amortegui氏は応募の中で、意味のある体験を共有したことで、社員の間に共通のアイデンティティが生まれたと述べています。
この例から学べるのは、経営陣の合意を得てから全社に広げた進め方です。同氏はポッドキャストで、ワークショップの組み立て方、経営陣とチームの賛同の得方、さらにジョブクラフティングが向かない場面についても語っています。
導入を検討する人事担当者にとって、具体的な手がかりになる内容です。ジョブクラフティングを単独で行うのではなく、人間関係や感謝に関するワークと組み合わせた点も、職場全体の雰囲気づくりとあわせて進めたい企業の参考になります。
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | Google LLC(Alphabet Inc.の子会社) |
| 参考URL | https://www.gsb.stanford.edu/insights/should-employees-design-their-own-jobs |
| https://www.fastcompany.com/3059345/why-innovative-companies-like-google-are-letting-employees-craft-their-own-jobs | |
| 業種 | 検索、広告、クラウドなどのインターネット関連事業 |
| 社員数 | 親会社Alphabet全体で190,820名(2025年12月31日時点)※Google単体の人数は非公開 |
| 概要 | 研究者と共同で実験 |
| ワークショップで計画作成 | |
| 同僚と上司が効果を評価 |
Googleは、検索エンジンやクラウドサービスなどを提供する米国の大手IT企業です。ジョブクラフティングの研究者と共同で社内ワークショップを実施し、その効果を検証しました。
Googleでは、ペンシルベニア大学ウォートン校のAdam Grant教授が、Googleのピープル・アナリティクス・チーム(人事に関するデータを分析し、施策に生かす社内チーム)と協力しました。
社員が自分の仕事を、より意味のある形に調整できるよう支援する取り組みです。使われたのは、ジョブクラフティングの研究者が開発した「Job Crafting Exercise」という演習ツールです。
参加者はまず、今の仕事を作業のかたまりに分け、それぞれにかけている時間とエネルギーを整理した現状図を描きます。次に、自分の価値観・強み・情熱に合うように作業を組み替え、理想的でありながら現実的な仕事の姿を描きます。
ワークショップに参加した社員は、参加から6週間後、同僚と上司による評価で、幸福度と仕事の効果の両方が有意に(統計的に偶然とはいえない差で)高いと判定されました
研究者の一人であるスタンフォード大学のJustin Berg氏は、この結果をふまえ、ジョブクラフティングは平均すると社員本人と会社の両方にとって良いものだと述べています。
ジョブクラフティングの効果をより詳しく知りたい方は、下記記事を合わせてお読みください。
※関連記事:ジョブクラフティングの効果とは?従業員と企業のメリットを研究と実例で解説
この例の最大の価値は、本人の自己申告ではなく、同僚と上司という周囲の評価で効果を確かめている点です。Berg氏は、この演習はチームや職場の全員が、上司の支援を受けながら一緒に取り組むと最も効果的だと述べています。
仕事の計画を図にすると、変えたい点を上司と具体的に話し合うための共通の言葉になります。同僚と作業を交換するといった、互いに得をする調整も見つけやすくなります。
▼この章の参照元
企業の例7選で紹介した7社の取り組みには、共通するポイントが5つあります。すべてを一度に取り入れる必要はありません。
自社で始めやすいものから組み合わせると、ジョブクラフティングが定着しやすくなります。
| ポイント | 主な企業の例 |
| 強みや特性を見える化してから考える | ヒューマネージ、Logitech、Google |
| 仕事の意味を顧客やビジョンにつなげる | 名優、スタディスト |
| 対話の場で工夫を引き出し合う | ヒューマネージ、名優、Google |
| 組織が承認と資源で後押しする | スタディスト、TestGorilla、Logitech、クラスメソッド |
| 楽しさを設計し、一過性で終わらせない | 名優、スタディスト |
自分の強みや価値観を把握してから仕事の工夫を考えると、具体的な行動に落とし込みやすくなります。ヒューマネージは、適性検査の結果で各自の傾向を把握してから対話に入りました。
Logitechは、最高の状態の自分を言葉にするワークを行っています。Googleで使われた演習ツールも、自分の価値観・強み・情熱に合わせて作業を組み替える形でした。
日々の業務が誰の役に立っているかを示すと、仕事の捉え直しが進みやすくなります。名優は研修の直前に、自社製品が病院でどう使われているかを全員で共有しました。
スタディストでは、社員の自発的な改善が、ビジョンにちなんだ社内表彰で評価されています。前述の東京ディズニーリゾートの清掃キャストも、仕事をゲストの笑顔とつなげて捉えている点で共通しています。
仲間との対話の場をつくることが、自分だけでは気づけない工夫を見つける近道です。ヒューマネージは、傾向を読み解き合うグループワークを行いました。
名優は、お悩み相談という設定で助言を出し合うカードゲームを取り入れています。Googleでの実験に関わったスタンフォード大学のBerg氏も、チームの全員が上司の支援を受けながら一緒に取り組むと最も効果的だと述べています。
個人の工夫を会社が正式に認め、必要な資源を用意すると、ジョブクラフティングは会社の仕事として根づきます。スタディストでは、社員が宣言した改善がプロジェクトとして扱われています。
TestGorillaは、年収の3%の能力開発予算を全社員に用意しています。Logitechは経営陣の賛同を得てから展開しました。
クラスメソッドは、成果を出す前提なら進め方は任せるという組織と個人の約束を言葉にしています。
楽しく取り組める場と、続けられる仕組みの両方があると、ジョブクラフティングは習慣になります。名優は、楽しみながら勝ち続ける組織を掲げています。
そのうえで、半期ごとの全社勉強会にゲーム形式の研修を組み込みました。スタディストのエンジニアが始めた社内勉強会は、2週間に1回のペースで続いています。
前野氏は幸せの条件として「やってみよう!」因子を挙げ、新しい価値を見いだして挑戦することで仕事が面白くなると説明しています。前向きな挑戦を楽しめる環境づくりは、働く人のウェルビーイングを支える土台にもなります。
▼この章の参照元
A:定型作業を仕組み化して得意な業務に時間を回す、他部署と情報交換する、自分の仕事が顧客にどう役立つかを捉え直す、といった工夫が代表的です。
A:適性検査と連動した研修や、全社勉強会でのカードゲーム、能力開発予算の付与など、研修や制度の形で取り入れられています。
A:強みの見える化、仕事と顧客のつながりの共有、対話の場、組織の後押し、楽しく続ける仕組みの5つが共通しています。
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