「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


人的資本経営と健康経営の違いを一言で表すと、「目的の広さとアプローチの範囲」にあります。
本記事では、慶應大・前野隆司教授と共同でウェルビーイング診断ツールを独自開発し、ウェルビーイング経営支援を手掛ける株式会社スカイベイビーズが監修し、両者の決定的な違いから自社における取り組みの優先順位までをわかりやすく解説します。
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株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。
企業の持続的な成長において、人材をどのように捉え活かすかが問われています。その代表的なアプローチが人的資本経営と健康経営です。
どちらも従業員を大切にするという根本は同じですが、焦点の当て方が異なります。まずはそれぞれの定義と、注目される背景を整理します。
人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上を目指す経営手法です。従業員にかかる費用をコストではなく投資とみなす点が最大の特徴です。
具体的には、従業員のスキル開発やエンゲージメント向上に投資を行い、事業成長というリターンを得ることを目的とします。一人ひとりが持つ能力やアイデアを企業の競争力に直結させるため、戦略的な人材配置や育成計画が求められます。
健康経営とは、従業員の健康保持や増進への取り組みを将来的な収益性を高める投資であると捉え、戦略的に実践する経営手法です。従業員の心身のコンディションを整えることに焦点を当てています。
具体的には、健康診断の受診率向上やメンタルヘルス対策などを行い、労働生産性の低下を防ぎます。従業員が心身ともに良好な状態であるウェルビーイングを保って働ける環境を整備することは、企業活動を支える大切な基盤づくりとなります。
少子高齢化による労働力不足やビジネス環境の急激な変化が背景にあります。企業が生き残り成長し続けるためには、今いる人材の価値を高め、新しい価値を創造していくことが不可欠だからです。
また、投資家などの外部ステークホルダーが企業の非財務情報を重視するようになったことも大きな要因です。企業が従業員の健康やスキルにどれだけ投資し、良好な状態を保てているかが、将来の成長性を測る重要な指標となっています。
両者の最大の違いは、目的の広さとアプローチの範囲にあります。健康経営が心身の健康をベースとした生産性向上に焦点を当てるのに対し、人的資本経営はそれを土台としつつ人材価値の最大化を目指します。
以下の表で違いを整理します。
| 項目 | 人的資本経営 | 健康経営 |
| 最終目的 | 企業価値の持続的な向上、経営戦略の実現 | 従業員の活力向上、生産性の低下防止、医療費削減 |
| 人材の捉え方 | 投資することで価値を生み出す資本 | 企業活動を支える重要な資源・基盤 |
| 主な対象領域 | スキル開発、育成、エンゲージメント、多様性、健康 | 身体的健康、メンタルヘルス、働きやすさ、安全衛生 |
| 主な発信先 | 投資家を中心とした外部ステークホルダー | 従業員(内部)、採用候補者、地域社会 |
健康経営の最終目的は、従業員の活力向上による現在の生産性最大化とリスク低減です。体調不良による欠勤やパフォーマンス低下を防ぐ、守りの側面を持ちます。
一方で人的資本経営の最終目的は、経営戦略の実現による中長期的な企業価値の向上です。企業のビジョンから逆算し、目標達成に必要な人材を育成・確保していく、攻めの視点が求められます。
両者を組み合わせることで、組織全体のウェルビーイング向上に繋がります。
健康経営では、人材を企業活動を支える大切な資源と捉えます。資源は過負荷をかければ枯渇するため、会社が適切に労働環境を整備し、健康状態を維持して保護する必要があります。
人的資本経営では、人材を投資することで自律的に価値を拡大していく資本と捉えます。事業設備への投資と同じように、従業員のスキル開発やエンゲージメント向上に投資を行い、そこから事業成長というリターンを得るという明確な投資対効果の概念を持ちます。
健康経営は、働くための心身の土台づくりにフォーカスします。長時間労働の是正やメンタルヘルス対策など、物理的および心理的な安全性の確保が中心的な取り組みとなります。
人的資本経営は、事業戦略と人材スキルの連動にフォーカスします。戦略実現に向けたスキルの再開発や次世代リーダーの育成、イノベーションを生むための多様性の確保などを含みます。
心身の健康を前提とした上で、さらに一歩踏み込んだ能力発揮の領域を対象としています。
健康経営は、主に社内の従業員や採用候補者、地域社会に向けた発信となります。従業員を大切にしている姿勢を示すことで定着率を高めたり、働きやすい企業として採用競争力を強化したりすることが目的です。
人的資本経営は、従業員だけでなく外部の投資家や株主が主要なターゲットになります。自社が十分な人材投資を行っており、将来の事業戦略を実現する組織能力があることを定量データで証明し、市場からの評価を獲得することが求められます。
人的資本経営と健康経営は、それぞれ独立したものではなく、密接に関連し合っています。この2つの概念を切り離して考えるのではなく、相互に補完し合う関係として捉えることが重要です。
ここでは、両者がどのように連動し、企業の成長に寄与するのかを解説します。
健康経営は、人的資本経営を成功させるための必須の土台となります。どれほど優秀な人材を採用し、高度なスキル研修を行っても、従業員が心身の健康を崩してしまえばその能力を発揮することはできないからです。
従業員が心身ともに満たされたウェルビーイングな状態で働ける環境があって初めて、自律的な学習やイノベーションが生まれます。マイナスを防ぎ活力を保つ健康経営の基盤の上に、人的資本経営の攻めの施策が成り立ちます。
人的資本経営における情報開示において、健康経営の指標は欠かせない要素として連動しています。投資家などの外部ステークホルダーは、従業員の健康状態や働きやすさを、中長期的な企業価値を測る重要な非財務情報とみなしているからです。
たとえばプレゼンティーズムの改善率やストレスチェックの結果など、健康経営で測定するデータは、人的資本情報の開示項目としてそのまま組み込まれます。両者の指標を統合して把握し、社内外に発信していくことが企業の信頼獲得に繋がります。
企業がこれらに取り組む際、必ずしも健康経営から始めなければならないという決まりはありません。自社の経営課題や組織の状況に合わせて、優先順位を見極めることが重要です。
ここでは、どのような状況の企業がどちらのアプローチを優先すべきか、実践的な視点をお伝えします。
組織の疲弊が顕著に表れている企業は、まず健康経営から着手すべきです。心身の健康という土台がぐらついている状態では、高度な人材投資を行っても効果が定着しないからです。
若手の早期離職が続いている場合や、メンタルヘルス不調による休職者が多い場合がこれに当たります。穴の空いたバケツに水を注ぐのではなく、まずは労働環境の改善や健康支援にリソースを集中させます。
従業員のウェルビーイングを確保し、組織のマイナス状態をゼロに戻す止血の対応が最優先となります。
経営戦略の大幅な転換を迫られている企業は、人的資本経営の要素を急ぐ必要があります。事業環境の変化に対応するための新たなスキルや人材が不足していると、事業自体が立ち行かなくなるためです。
新規事業の急激な立ち上げや、全社的なDX推進が至上命題となっている場合などが当てはまります。このようなケースでは、今すぐ必要なスキル要件を定義し、リスキリングや戦略的な採用を急ピッチで進めます。
健康経営による安全衛生を最低限担保しつつ、走りながら攻めの人材投資を強化していくアプローチが適しています。
実務における理想的な形は、自社の課題に合わせて両者を同時並行で進めることです。攻めの施策と守りの施策は、相互に影響を与えながら相乗効果を生み出すからです。
次世代リーダーに難易度の高いミッションを与えて早期育成を図る一方で、プレッシャーによるバーンアウトを防ぐためのサポート体制を用意するような連動が具体例です。経営戦略から逆算し、従業員のウェルビーイングを高めながら人材価値を最大化する両輪の実行が、最も確実な成果をもたらします。
自社の課題を的確に把握するには、人事データと従業員の声の両面から現状を点検することが不可欠です。ここでは守りと攻めの2つの視点から、自社の現在地とボトルネックを診断し、ウェルビーイングを高めるためのチェックポイントを紹介します。
健康経営の課題は、組織のコンディションと定着率を示すデータに表れます。従業員が疲弊していないか、安全に働ける基盤が維持されているかを見極める必要があるからです。
具体的には、休職率や離職率の高止まり、残業時間の増加、ストレスチェックにおける高ストレス者の割合などを点検します。これらの指標に問題がある場合は組織のウェルビーイングが損なわれている状態であり、まずは労働環境の改善による止血が最優先課題となります。
人的資本経営の課題は、経営戦略と現在の人材スキルのギャップに表れます。将来の事業目標を達成するために、必要な能力を持った人材が十分に確保・育成されているかを点検するからです。
将来のビジョンから逆算したスキル要件の定義や、次世代リーダーの育成計画が実行されているかを確認します。離職率などの健康データに問題がなくても、学習への投資が不足している場合は、攻めの人材投資が課題となります。
経営戦略を実現するには、健康と人的資本の両面から適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、定点観測することが重要です。ここでは、組織のウェルビーイングを高め、企業価値向上に繋がる具体的な指標の例を解説します。
健康経営では、従業員の心身のコンディションと働きやすさを可視化する指標を設定します。これらは組織のマイナス要因を減らし、安定した事業運営の基盤が保たれているかを測るためです。
代表的な指標として、健康診断の受診率やストレスチェックの受検率、有給休暇の取得率、平均残業時間などが挙げられます。また、出社していても体調不良で業務効率が落ちている状態を測るプレゼンティーズムの指標も、従業員のウェルビーイングを測る上で重要視されています。
人的資本経営では、人材への投資がどのように企業価値の向上に繋がっているかを示す指標を設定します。スキル開発や意欲の向上が、実際の事業成長というリターンを生んでいるかを確認するためです。
具体的には、従業員一人あたりの研修費用や学習時間、社内公募制度の利用率、多様性を示す女性管理職比率などが該当します。さらに、自社への愛着や貢献意欲を示す従業員エンゲージメントスコアは、私たちが提供するウェルビーイング計測ツールなどでも可視化できる重要な指標となります。
A:健康経営が従業員の健康維持による「生産性向上やリスク低減(守り)」を目的とするのに対し、人的資本経営は健康を土台としつつ、スキルや意欲を高めて「中長期的な企業価値の向上(攻め)」を目指す点にあります。
A:離職率や体調不良が課題なら「健康経営」を、新規事業などに向けた人材育成が急務なら「人的資本経営」を優先するなど、自社の課題に合わせて判断することが重要です。
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