「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


「自己肯定感を上げましょう」という言葉は、いまだによく耳にします。
自分を認めること。自分を好きになること。人と比べすぎず、自分には価値があると思えること。どれも大切なことでしょう。
けれど、「自分を肯定しなければ」と思うほどに、さらに疲れてしまうこともあります。
前向きになれない。自信を持てない。周囲と比べて落ち込んでしまう。そんな自分を見て、「自己肯定感が低いからダメなんだ」と、さらに否定してしまう。
本来は自分を支えるはずの言葉が、新しい課題になってしまうのです。
スカイベイビーズでは、人が自然体で働き、生きることを大切にしています。自然体とは、いつも自分を肯定できている状態ではありません。揺れる日も、弱さを感じる日も含めて、自分の状態を雑に扱わないことだと考えています。
そこで知っておきたいのが、「自己存在感」という考え方です。
自分を評価する前に、自分が今何を感じているのかを知る。よい自分だけではなく、弱さや迷いも含めて、自分という存在を実感する。自己肯定感を上げることに疲れてしまった時、私たちは自分とどう付き合えばいいのでしょうか。
代表・安井の視点からひも解きます。

クリエイティブディレクター・代表取締役。クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。2016年より山梨との二拠点生活をスタート。
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――自己肯定感という言葉がよく使われています。安井さんは、この言葉をどう捉えていますか?

自己肯定感は、もちろん高いに越したことはないんだと思います。
自分のことを必要以上に否定せず、自分にもできることがあると思えることは、生きやすさにつながります。「どうせ自分には無理だ」と思い続けていたら、新しいことに取り組むのも難しくなる。
ただ、「自己肯定感を上げなければいけない」が強くなりすぎると、それ自体が人を苦しめることがあります。
自分を認められないことや、自信を持てないことまで、「改善しなければならない自分の欠点」になってしまう。そうすると、自己肯定感が低い自分をさらに責めることになる。
自分を楽にするための考え方だったはずなのに、それを達成するためにまた頑張っているのであれば、少し立ち止まってもいいと思います。
――特に今は、自己肯定感を保つこと自体が難しい時代でもありますよね。

SNSを開けば、他の人の暮らしや成果が簡単に見えます。楽しそうに働いている人や、自分よりうまくやっているように見える人もいる。
そういう環境では、どうしても比較が起きます。
私自身も、似た仕事をしている人が自分よりずっと上手にやっているのを見ると悔しいですし、「自分はダメだな」と思うこともあります。
ただ、それを悲しみ続けても仕方がないという感覚もある。悔しいなら、自分が頑張れるところは頑張るしかない。
問題なのは、比較そのものより、外からの評価だけで自分を確かめる状態が続くことだと思います。
誰かよりできれば安心して、できなければ落ち込む。職場や家族、友人からどう見られているかで、自分への評価まで変わってしまう。
外側だけを基準にしていると、どうしても自分は揺れ続けます。
――そこで出てくるのが、「自己存在感」という考え方でしょうか?

自己存在感は、自己肯定感よりも少し手前にある感覚だと思います。
自己肯定感には、自分を肯定できるか、自分には価値があると思えるかという評価が入っています。
一方で自己存在感は、今の自分の中にあるものに気づくことに近い。
たとえば、何が好きなのか。何が苦しいのか。今、何に反応しているのか。自分にはどんな弱さや残念なところがあるのか。それをよい悪いと判断する前に、「自分には今、こういうものがあるんだ」と受け取る。
私自身、「自分とはこういう人間です」ときれいに言語化できるタイプではありません。好きなものを聞かれても、すぐ答えられなかったりする。
ただ、弱さや残念なところも含めて、それも自分だと受け入れようとはしてきました。30代くらいから、ようやくそういう感覚が少しずつ持てるようになった気がします。
自己存在感は、立派な自分を見つけることではありません。自分の中にあるものを、なかったことにしない。そこが大事なのだと思います。
――自分の中にあるものに気づくには、どうすればいいのでしょうか?

まず、自分の気持ちを言葉にすることは大事だと思います。
人と話していても、出来事は説明できるのに、気持ちはなかなか話せないことがあります。
たとえば「今どんな気分ですか」と聞かれているのに、「今日は子どもの送り迎えが大変でした」と答える。起きたことは話せているけれど、その時の心まではまだ言葉になっていない。
疲れたのか。焦ったのか。誰かに助けてもらって嬉しかったのか。自分がうまくできなくて悔しかったのか。
そこまで言葉にすると、初めて自分の状態が少し見えてきます。
――安井さん自身は、自分の気持ちとはどう付き合っていますか?

私はどちらかというと内向きなので、放っておいても考えてしまうほうです。
悲しいことがあると結構長く引きずりますし、へこんだ時も、ちゃんと受け入れてから次に進もうとする。
感情に目を向けるというより、溢れてきたものをどう処理するかを昔からやってきた感覚に近いですね。
時間はかかりますが、一度その感情を受け入れられると、同じようなことが起きても以前ほど傷つかなくなることがあります。
感情は、抑えればなくなるものではありません。仕事ではコントロールも必要ですが、感じていないことにし続けると、自分が何に傷つき、何を大切にしているのかまでわからなくなる。
だから、心に起きたことを一度ちゃんと受け取ることは必要だと思います。
――一人で考えるだけではなく、誰かに話すことも必要なのでしょうか?

黙って頭の中で考えているだけだと、自分でも何を感じているのかわからないまま残ることがあります。
だから、誰かに一方的に話してみる時間があってもいい。
親でも、兄弟でも、友人でもいいですし、必ずしもアドバイスをしてもらう必要はありません。ただ、自分の言葉を聞いてもらう。
話しているうちに、「自分はこれが嫌だったんだ」とか、「本当は寂しかったんだ」と気づくことがあります。
誰かに答えをもらうというより、自分の気持ちを自分で聞くために、相手にいてもらう感じです。
普段からそういう関係性があることは、結構大事だと思います。
――スカイベイビーズでは、ミーティングの冒頭にチェックインをしています。あの時間では、何を大切にしていますか?

あの時間で見たいのは、出来事の共有よりも、その人の心が今どこにあるのかです。
もちろん、最初から自分の気持ちをうまく話せる人ばかりではありません。どうしても「最近こんなことがあった」という出来事の説明になりやすい。
でも、そこから一歩だけ進んで、「それを自分はどう感じたのか」が出てくると、その人の状態が見え始めます。
何に少し引っかかっているのか。何で疲れているのか。逆に、何に嬉しさを感じているのか。
それを話すことで本人も自分を知れるし、周囲も役割や成果だけではなく、その人の今の状態を理解できます。
実際、気持ちを話せる人は少しずつ増えてきたように感じます。
ただ、チェックインという仕組みを置けば自然にそうなるわけではありません。「今日は何があったか」だけで終わらず、「自分の心はどう動いたか」に少し目を向ける。その意識は必要だと思います。
特別な研修をしなくても、日常の中にこういう時間が少しある。それだけでも意味はあると思っています。
――自分を肯定しようとすること自体に疲れてしまったら、どうすればいいでしょうか?

疲れていると感じているのであれば、まず離れるのが一番だと思います。
無理に自己肯定感を上げようとしなくていいし、自分を好きになろうと頑張らなくてもいい。
特に、外部の評価で自分を確かめ続けている時は、少し距離を取ったほうがいい。
SNSを見るたびに苦しくなるなら、一度見ないようにしてみる。職場の評価や家族の期待ばかりを考えているなら、それを少し横に置いて、自分の感覚に戻ってみる。
誰かにどう思われているかではなく、今の自分はどうなのか。
疲れているのか。傷ついているのか。何が嫌だったのか。逆に、何に心が動いたのか。
自己肯定感そのものを否定する必要はありません。ただ、それを上げるために自分を追い込んでいるなら、一度手放してもいいと思います。
――自己存在感という考え方があると、自己肯定感との付き合い方も変わりそうですね。

自分を好きになれない時でも、自分の心を大切にすることはできます。
ここはすごく大事だと思います。
失敗した時や、誰かと比べて落ち込んだ時、自分の残念な部分が見えた時に、無理やり「自分は素晴らしい」と思おうとしても、心がついてこないことがあります。
でも、「今、自分は悲しいんだな」と気づくことはできる。「悔しいんだな」「傷ついているんだな」と認めることはできる。
自分を肯定する前に、自分を感じる。
何を感じているのかわからないまま、「大丈夫」「自分には価値がある」と言い聞かせるより、まず今の自分の心を知る。
自己存在感は、強い自分をつくるものではありません。
弱さも含めて、自分がここにいることを見失わないための感覚なのだと思います。
――自己存在感という考え方は、組織にも関係しますか?

仕事ではどうしても、成果や評価が前に出ます。
できたか、できなかったか。期待に応えられたか。評価されたか。
それだけで自分を見ていると、うまくいっている時はいいのですが、少しつまずいただけで自分全体まで揺らぎやすくなります。
一方で、自分の状態をある程度わかっている人は、「今は少し疲れている」「この役割にはちょっと違和感がある」「この仕事にはすごく心が動いている」と言葉にできます。
こういう情報は、組織にとっても大事です。
誰かが疲れているのに言えず、全部「大丈夫です」で済ませてしまう。違和感があるのに、成果だけは出そうとする。そういう状態が続くと、表面的には仕事が回っていても、内側には少しずつひずみがたまります。
自分の状態に気づき、それを必要な範囲で言葉にできることは、甘えではありません。
むしろ、一緒に仕事をするために必要な情報だと思います。
――自己存在感を大切にすることは、組織のあり方にもつながりますか?

活性化している組織は、全員が自信に満ちていて、いつも前向きな組織ではないと思います。
人は揺れます。自信がある日も、ない日もある。仕事に前向きな時もあれば、迷う時もある。そういう揺れをなかったことにして、全員を前向きにしようとすると、かえって苦しい組織になる。
大切なのは、その人自身が今の状態に気づけること。そして、それを必要な範囲で言葉にできることです。
スカイベイビーズが大切にしているのも、自己肯定感を上げることそのものではありません。
人が自分の心を雑に扱わず、自然体で働ける余白を持てること。
そこに、組織の活性化につながるものがあると思っています。
自己肯定感を上げることは、悪いことではありません。
ただ、自分を肯定しようとすることに疲れてしまったなら、一度そこから離れてもいい。
自分を好きになろうとする前に、「今、自分はどう感じているんだろう」と心に目を向けてみる。
自己存在感とは、立派な自分をつくることではありません。弱さや迷いも含めて、自分がここにいることを実感することです。
自分を肯定できない日があっても、心まで否定する必要はありません。
スカイベイビーズは、人が外の評価だけで自分を確かめるのではなく、自分の感覚に戻りながら自然体で働ける余白を大切にしています。
あなたは最近、自分を肯定しようとすることに疲れていないでしょうか。
その時、無理に自分を好きになろうとするのではなく、まず「今の自分は何を感じているのか」と聞いてみてもいいのかもしれません。
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