「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


管理職の「静かな退職」が急増する最大の原因は、個人のモチベーション低下ではなく、プレイングマネジャー化による過重負荷や見合わない報酬から自身の心身を守るための「合理的な自己防衛」です。
これを根本から解決するには、精神論ではなく以下の組織対策が求められます。
本記事では、ウェルビーイング経営支援を手掛ける株式会社スカイベイビーズの監修のもと、管理職が心理的に離脱する実態や兆候、企業が講じるべき具体的な対策を解説します。
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株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。
管理職の静かな退職は、一過性の流行ではなく、現代の企業が抱える構造的な問題として確実に増加しています。各種調査データと一般社員との比較から現状を紐解きます。
管理職の静かな退職は、組織の根幹を揺るがす深刻な課題として顕在化しています。
各種調査データを見ても、この傾向は明らかであり、多くの管理職が上司や経営陣からのプレッシャーに悩んでいます。罰ゲーム化していると感じる実態は、心身の健康や働きがいといったウェルビーイングが著しく損なわれている状態と言えます。
| 調査主体・対象 | 発表された主な数値・データ |
| マイナビ (正社員調査) | 正社員の46.7%が静かな退職状態にあり、その7割以上が今後もこの働き方を続けたいと回答 |
| エフアンドエムネット (管理職調査) | 自社の管理職が罰ゲーム化していると感じる層が56.7%。管理職のストレス原因第1位は上司や経営陣からのプレッシャー |
| スコラ・コンサルト (意識調査) | 現役管理職の約6割が管理職は損が多いと回答。指示された以上の業務はやらない層は全体の4割 |
一般社員と管理職の静かな退職は、根底にあるメカニズムが全く異なります。一般社員がプライベートを重視するのに対し、管理職は自身の心身を守るための合理的な自己防衛としてこの選択をしています。
役割と負担が不釣り合いな状態で働き続けることは、個人のウェルビーイングを低下させる組織設計のエラーに他なりません。
| 比較項目 | 一般社員 | 管理職 |
| 動機 | プライベートやタイムパフォーマンスの重視 | 自らの心身とキャリアを守るリスク回避 |
| 状態 | 給与分は働くがそれ以上の成果は目指さない | 指示された定型業務のみをこなし、自発的提案を控える |
| 原因 | 頑張っても給与が上がらないというマクロな経済要因 | 権限と報酬が見合わないというミクロな組織設計のエラー |
管理職が静かな退職を選ぶ背景には、モチベーションの低下ではなく、組織構造に起因する深刻な要因が潜んでいます。管理職のウェルビーイングを阻害する6つの原因を解説します。
| 分類 | 要因(メカニズム) | 発生の動機 |
| 環境・構造 | 過剰な業務負荷による疲弊 | プレイングマネジャー化による物理的な限界 |
| 環境・構造 | 責任と報酬のアンバランス | 組織設計のエラーとインセンティブの欠如 |
| 対人・環境 | 経営層と部下からの板挟み | 上下からのプレッシャーによる精神的疲弊 |
| 能動的選択 | キャリア上限の察知によるリソース分散 | キャリアの最適化と外部投資 |
| 戦略的回避 | 役職を利用した安全地帯の確保 | 他者コントロールからの脱出 |
| 心理的離脱 | 組織に対する学習性無力感 | 徒労感による関与の諦め |
管理職の多くは、プレイングマネジャー化による業務過多で疲弊し、心身を守るために心理的離脱を選んでいます。自身の営業や実務の目標を持ちながら、部下の育成やメンタルケアも行わなければならず、物理的な限界を迎えているのが実態です。
業務量だけが積み上がり、本来のマネジメントに割くエネルギーが枯渇することが、やりがいを奪いウェルビーイングを著しく低下させます。
業務負担や責任の重さと得られる報酬が見合っていないことが、会社への貢献意欲を失わせる大きな要因です。管理職になると、残業代が役職手当に置き換わり、実質的な時給が部下を下回るといった逆転現象が多くの企業で起きています。
頑張って組織を動かしても損をするだけと合理的に判断した結果、与えられた権限と報酬の範囲内でのみ動く省エネ運転を選択するようになります。
上層部からの厳しい要求と部下からの配慮の求めの間に立たされ、孤立を深めることで静かな退職に至ります。経営陣からは高い目標達成を迫られる一方で、価値観の異なる若手社員にはハラスメントリスクに怯えながら接しなければなりません。
上下の価値観の翻訳作業というストレスフルな環境が心理的安全性を奪い、部下に深く関わることをやめる原因となっています。
優秀な管理職ほど社内での成長や昇進の限界を早期に見極め、自身のエネルギーを社外へ振り向ける傾向があります。本業の業務は評価を落とさない最低ラインに抑え、浮いた時間や気力を副業や次のキャリアに向けた準備に投資する合理的戦略です。
挑戦が正当に報われない環境では、会社に全力を注ぐ意味が見出せず、個人の自己実現の場を外部に求めるようになります。
上司からの無理な要求や過重なタスクから逃れるため、管理職という立場を逆利用して防衛線を張るケースもあります。プレイヤー層にいると直接的に仕事を詰め込まれるため、あえて管理職に昇進して裁量を得た上で、不要な摩擦を避けるという行動です。
組織の構造的な隙間を利用してリスクを回避することは、極度の疲労から身を守るための生存戦略として機能しています。
過去に組織変革や部下育成に本気で挑んで挫折した経験が、会社に対する期待を完全に失わせる原因となります。新しい提案をしても無駄に終わり、頑張っても何も変わらないと学習したベテラン管理職は、情熱のスイッチをオフにしてしまいます。
自己効力感が失われた状態は、ウェルビーイングの観点からも非常に危険であり、指示された定型業務のみをこなす状況へと変化していきます。
実際に管理職が静かな退職に至ったケースを見ると、単なる怠慢ではなく合理的な自己防衛であることがわかります。ここでは現役の管理職や事業部長が発信したリアルな事例を4つ紹介します。
彼らがどのようにウェルビーイングを守ろうとしたのかを参考にしてください。
成果を上げて事業部長にまで上り詰めたものの、組織の限界を察知して心理的に離脱したケースです。会社をすぐに辞めるのではなく、管理業務は評価を下げない最低限にとどめました。
そして浮いた時間とエネルギーをブログ執筆や副業の準備に充てるという選択をしています。優秀な人材ほど見切りが早く、ウェルビーイングを社外の自己実現に見出す典型的な事例と言えます。
※参考:静かな退職
大企業で長く管理職を務める筆者が、無茶振りをかわすために部下なし管理職へシフトしたケースです。プレイヤー層のままでは、上司に振り回されて消耗するため、あえて管理職へ昇進して裁量を獲得しています。
その上で不要な摩擦を避けるポジションに身を置き、最もリスクなく生き残る戦略をとっています。自身の心身の健康とウェルビーイングを維持するために、組織の構造を利用した生存戦略の一つです。
※参考:大企業で「静かな退職」を実現したいなら、まず管理職を目指せ
ベンチャー企業においてプレイング業務とマネジメントの重圧に晒され、自発的な組織改善を諦めたケースです。過重な負荷が続く中でチームの底上げを放棄し、与えられたノルマの最小限のみをこなす事なかれ主義へと移行しました。
逃げ場のない環境で心身を摩耗させた結果であり、心理的安全性が失われると管理職はこのような自己防衛に走らざるを得なくなります。
※参考:ベンチャーのマネージャーは、なぜこんなにしんどいのか
育児と管理職業務を両立するリーダーが、次々と割り振られる雑多なタスクから身を守るために厳密な線引きを行ったケースです。本来の管理業務以外は一切引き受けず、チームの突発的な問題にも深く関与しない姿勢を貫いています。
精神的および体力的な破綻を防ぐための防衛手段であり、仕事と生活の調和というウェルビーイングを保つための苦肉の策と言えます。
兆候を見せる管理職に対し、個人のモチベーション問題として扱うのは逆効果です。ここでは経営陣や人事がとるべき初期対応のステップを解説します。
会社への不信感を解き、ウェルビーイングを取り戻すための正しい対話が求められます。
まずは個人の責任ではなく、会社の仕組みに無理があることを明確に認めます。静かな退職状態にある人はすでに会社に心を閉ざしているため、評価の場ではないと約束して警戒を解くことが最優先です。
心理的安全性を担保することで初めて、双方向の健全な対話がスタートします。
精神論で励ますのではなく、経営や人事が自ら業務を削る覚悟を具体的な行動で示します。漠然と手伝うと言うのではなく、今日からやめるべき業務や巻き取るべきタスクを一緒に棚卸しすることが重要です。
業務の断捨離が実行されて初めて、相手は会社が本気で変わろうとしていると実感できます。
若手との価値観の違いやハラスメントへの配慮による疲労に対し、会社が盾になることを伝えます。直接言いにくい指導やトラブル発生時の一次対応を人事が引き受けると宣言し、板挟みの孤独から解放します。
管理職が孤立しない支援体制を整えることが、健全なマネジメントを取り戻す鍵となります。
根本的な解決には、社内で全力を出す方が合理的だと実感できる構造改革が不可欠です。ここでは企業が実行すべき4つの組織対策を順番に解説します。
| 進める順番 | 対策のテーマ | 具体的なアクション例 |
| ステップ1 | 経営主導で不要な業務を削減する | 形骸化した会議や報告書をトップダウンで全廃する |
| ステップ2 | プレイヤーとしての目標を削減する | 個人ノルマを免除しマネジメントに集中できる余白を作る |
| ステップ3 | 予算や人事の決定権限を委譲する | 経費裁量やチーム編成の権限を渡し自律性を高める |
| ステップ4 | マネジメントに対する評価と報酬を再設計する | 挑戦のプロセスを評価し役職手当の適正化を図る |
現場の管理職が何に時間を奪われているかを把握し、経営陣が自ら業務の廃止を宣言します。現場に削減を丸投げするのではなく、形骸化した会議やレポートをトップダウンで即座に終わらせることが重要です。
物理的な余白を生み出すことが、組織全体のウェルビーイングを向上させる第一歩となります。
過重な負荷を適正化し、マネジメントに専念できる環境を整えます。管理職個人の売上目標や実務ノルマを削減または免除し、プレイヤーとしての役割を強制的に引き下げることが有効です。
役割を明確に区別し、管理に集中させることで、組織の生産性は自然と向上します。
業務と役割が整理された段階で、自律的に動くための武器となる権限を現場に渡します。目標だけを与えて手段を制限するのをやめ、自部署の予算の使い道やチーム構成に関する決定権を委ねることが必要です。
自分で組織を変えられるという自己効力感の回復が、仕事への情熱を再び呼び起こします。
最後に、管理職としての頑張りが正当に報われる評価基準へと落とし込みます。個人の数字ではなく、チーム全体の残業削減や部下の育成などマネジメントの成果そのものを評価指標に組み込みます。
独自開発した弊社のウェルビーイング計測ツールなどを活用し、組織状態の改善を可視化して評価に繋げることも効果的です。
A:個人の意欲低下ではなく、プレイングマネジャー化による過重負荷や、責任と報酬のアンバランスといった組織構造への合理的な自己防衛が主な原因です。
A:経営主導での不要業務の削減、プレイヤー目標の引き下げ、予算等の権限委譲、マネジメント成果を正当に評価する制度の再設計の4ステップが重要です。
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