健康経営におけるメンタルヘルス対策の重要性と企業事例

健康経営においてメンタルヘルス対策を推進する最大の目的は、不調者の休職を防ぐ「守り」にとどまらず、全従業員の活力を引き出して組織の生産性を高める「攻め」の体制を構築することです。

具体的には以下の3点が重要になります。

  • 見えにくい損失である「プレゼンティーズム」の防止
  • 優秀な人材の定着(リテンション)と採用力の強化
  • イノベーションを生み出す心理的安全性の構築

本記事では、慶應大・前野隆司教授と共同でウェルビーイング診断ツールを独自開発し、企業のウェルビーイング経営を支援する「株式会社スカイベイビーズ」の監修のもと、メンタルヘルス対策が重要な理由から、成功している企業の具体事例、実践における重要なポイントまでをプロの視点でわかりやすく解説します。

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この記事の監修者
Masato Yasui

株式会社スカイベイビーズ 代表取締役/クリエイティブディレクター
クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。スカイベイビーズでは、コーポレートサイト、採用サイト、オウンドメディアなどジャンルを問わず様々なWebサイトの制作・運用の支援まで幅広く手掛ける。

健康経営でメンタルヘルスが重要な理由

健康経営において従業員のメンタルヘルスは、最も優先して取り組むべき中核の施策です。身体の健康だけでなく、心の健康が担保されていなければ、健康経営への投資対効果を最大化することはできないためです。

その具体的な理由を3つの視点から解説します。

プレゼンティーズムを防ぐ

メンタルヘルス対策が重要な最大の理由は、目に見えない損失であるプレゼンティーズムを防ぐためです。プレゼンティーズムとは、出勤しているものの心身の不調によりパフォーマンスが低下している状態を指します。

軽度のうつや強いストレス、睡眠障害などのメンタル不調は、このプレゼンティーズムの最大の要因となります。従業員の心の健康を保つことは、企業にとって隠れた甚大なコストを削減することに直結します。

人材の定着と採用力を強化する

心の健康は、優秀な人材の定着や採用力の強化にも直結します。メンタル不調による休職や退職は、採用コストや育成コストが無駄になるだけでなく、残された従業員への業務負荷が増大して負の連鎖を生み出します。

逆に、心理的安全性が高くメンタルケアが行き届いている企業は、従業員のエンゲージメントが自然と高まります。結果として離職率が低下し、採用市場においても選ばれる企業になることができます。

イノベーションと生産性を向上させる

企業のイノベーションと生産性を高めるためには、良好なメンタルヘルスが欠かせません。現代のビジネスにおいて付加価値を生み出す源泉は、従業員の思考力や創造性です。

脳のパフォーマンスはストレス状態に大きく左右されるため、不安や強いストレスを抱えた状態では新しいアイデアは生まれません。従業員の心が満たされ、活力がみなぎっている状態であって初めて、本来のクリエイティビティが最大限に発揮されます。

健康経営で注視すべきメンタルヘルスのリスク

健康経営においてメンタルヘルス不調が企業にもたらす影響は、主に2つのリスクに分けられます。それぞれの状態と企業への影響を正しく把握することが対策の第一歩です。

状態定義企業への影響
アブセンティーズムメンタル不調などによる欠勤や休職業務の明確な停滞、代替要員の確保コスト、労災リスク
プレゼンティーズム出社しているが心身の不調で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態目に見えない巨大な経済的損失

アブセンティーズム

アブセンティーズムとは、メンタル不調などによる欠勤や休職のことです。従業員が出社できない状態になるため、業務の明確な停滞を引き起こします。

また、代替要員を確保するための採用コストや教育コストが発生するほか、労災リスクにもつながります。目に見えてわかりやすい損失であるため、従来はこのアブセンティーズムを減らすことが健康管理の主な目的とされていました。

プレゼンティーズム

プレゼンティーズムとは、出社しているものの心身の不調で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指します。企業にとって目に見えない巨大な経済的損失であり、実は企業の健康関連コストの大部分を占めるとされています。

健康経営の文脈では、この見えにくいリスクをいかに可視化し、従業員のコンディションを改善していくかが最大の課題となります。

健康経営におけるメンタルヘルス対策の考え方

これからの健康経営では、メンタルヘルスに対するアプローチを根本から見直す必要があります。従来の守りの対策から、活力を生み出す攻めの対策への転換が求められています。

項目守りの対策攻めの対策
主な目的損失の最小化(休職や退職を防ぐ)価値の最大化(生産性や創造性の向上)
ターゲットストレス高リスク者やメンタル不調者全従業員(健康な人も含む)
アプローチ早期発見や早期治療、ストレスチェック組織風土の改善、心理的安全性の構築、強みの活用
指標休職率、離職率、残業時間ワーク・エンゲイジメントスコア、従業員満足度

マイナスをゼロにする守りの対策

守りの対策とは、休職や退職を防ぐために損失を最小化するリスクマネジメントです。ストレス高リスク者やメンタル不調者を早期に発見し、速やかに治療やケアへとつなげます。

休職率の低下などを目的とする不可欠な土台ですが、これだけでは企業に高い利益や競争力をもたらすわけではありません。病気ではないがやる気もないという状態の従業員を生み出すだけであり、経営としての投資対効果を回収するには不十分です。

ゼロをプラスにする攻めの対策

攻めの対策とは、全従業員の活力を高めて組織の生産性や創造性を最大化するアプローチです。高リスク者を減らすこと以上に、従業員がいかに働く喜びや仕事への熱意を感じているかを重視します。

組織風土の改善や心理的安全性の構築を通じて、従業員が主体的にイキイキと働ける環境を作ります。この攻めの姿勢を取り入れることで、健康経営への投資が企業価値の向上という明確なリターンにつながります。

健康経営のメンタルヘルス施策に関する企業事例

実際にメンタルヘルス施策を攻めのアプローチへと転換し、健康経営を推進している企業の事例をご紹介します。各社がどのように従業員の活力を引き出しているのか、具体的な取り組みと効果を見ていきましょう。

株式会社ディー・エヌ・エーの事例

株式会社ディー・エヌ・エーでは、従業員に健康を義務として求めるのではなく、「楽しそうだから参加したい」と思える仕掛けを通じて、心身の健康づくりを促しています。メンタルヘルスを含む健康施策を、従業員の自発的な行動やエンゲージメントにつなげている点が特徴です。

実施した内容

CHO室の取り組みを中心に、オンラインセミナーは女性従業員だけでなく男性従業員や家族、パートナーの参加も可能にしました。生理とPMSのオンラインセミナーでは、低用量ピルのトライアルプログラムも実施しています。

また、出社推奨日に健康をテーマとしたイベントを開催しました。例えば、目の健康をテーマにした日には、周辺視野を鍛えるアプリで結果を競い合うなど、従業員が自ら健康のためのアクションを起こすきっかけを生むサポートを行っています。

効果

「健康になりなさい」と指導するのではなく、楽しめる仕掛けを作って参加を促すことに成功しています。会社の生産性を上げるためではなく、一緒に働く仲間やその家族が健康で悲しい思いをしないためという目的を掲げた結果、従業員が面白そうだから参加したいと思えるポジティブなアプローチとなりました。

結果として、従業員の会社に対する信頼やワーク・エンゲイジメントの向上に直結し、パフォーマンスの最大化を生み出しています。

※参考:https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/examples/19/

ブラザー工業株式会社の事例

ブラザー工業株式会社では、従来の「メンタル不調を予防する」という考え方から一歩進み、従業員の成長や幸福感を高めるポジティブメンタルヘルスに取り組んでいます。個人への支援だけでなく、管理職や従業員同士の関係性にも働きかけている点が特徴です。

実施した内容

不調者を防ぐことに注力していた従来のメンタルヘルスに対し、個人の成長や幸福感などを重視するポジティブメンタルヘルスを開始しました。ストレスチェック後の職場改善活動として部門長対象のワークショップを開催し、自部門の強みを把握してマネジメントに生かすためのアクションプランを策定しました。

また、従業員同士が少人数でお互いの価値観や強み、働きやすい職場とは何かについて語り合うCREWプログラムも開始しています。

効果

部門長を対象としたワークショップに参加した部門長からは、部門長同士の意見交換の中で新しい気づきを得られたという声があがりました。また、CREWプログラムの対話を通じて、参加者同士の相互理解や信頼関係の構築が促進されました。

対話後に実施したストレスチェックの結果においては、職場で相互理解ができているか、同僚に対し信頼を持って業務に取り組めているかを測る職場の一体感の項目において改善が見られています。

※参考:https://global.brother/ja/sustainability/social/health

富士通株式会社の事例

富士通株式会社では、従業員一人ひとりが自律的に健康を維持し、いきいきと働ける状態を目指して、メンタルヘルスや職場環境に関するさまざまな施策を展開しています。健康情報の提供にとどまらず、1on1やジョブ・クラフティングなどを通じて、従業員自身が働き方を見直す機会をつくっている点が特徴です。

実施した内容

社員一人ひとりが自律的に自らの健康を維持し、いきいきと働く企業を目指し様々な取り組みを行っています。

世界メンタルヘルスデーに連動して社員向けにメンタルヘルスに関する企画を実施し、産業保健スタッフが制作した睡眠の質を高めるための映像コンテンツや、短い時間で簡単に気軽にできる運動や体操を紹介しました。

また、パルスサーベイや質を高めた1on1ミーティングを徹底しジョブ・クラフティングの考え方を促進しています。

効果

体操を実践した社員からは、体がすっきりしてリフレッシュできました、次の仕事もはかどりそうですといった声が寄せられています。会社からの一方的なストレスケアではなく、従業員が自律的に仕事の意義を再構築し、精神的な充実感を得られるような組織風土づくりが行われています。

心理学的なアプローチを用いて仕事への熱意や没頭、活力であるワーク・エンゲイジメントを高めることがメンタルヘルス施策の最終目標として機能しています。

※参考:https://note.com/fujitsu_pr/n/n25449ad897dd

健康経営のメンタルヘルス施策を成功させるポイント

企業がメンタルヘルス施策を成功させ、健康経営を推進するためには共通する重要な要素があります。従業員の活力を高め、組織全体のパフォーマンスを最大化するための3つのポイントを解説します。

従業員の活力を引き出す目標を設定する

施策を成功させるためには、従業員の活力を引き出すことを最終目標に設定することが重要です。単に不調者を減らすことを目的とするのではなく、仕事への熱意や心理的な充実感を高めることに注力します。

メンタルヘルスを個人の成長やパフォーマンス向上のための手段として捉え直すことが求められます。この目標転換により、施策が形骸化することなく企業の業績向上へと直結していきます。

自発的に参加できる仕掛けを作る

従業員が自発的に参加したくなる環境や仕掛けを作ることが、全社への浸透を加速させます。会社から健康管理やメンタルケアを強制されると、従業員は義務感を感じて前向きに取り組めません。

ゲーム性を持たせたり、コミュニケーションの機会として活用したりするなど、楽しさを軸にしたアプローチが有効です。従業員が自ら関わりたいと思えるポジティブな体験を提供することで、施策の効果は大きく高まります。

組織風土や職場環境を改善する

個人へのケアだけでなく、組織風土や職場環境そのものを改善する働きかけが不可欠です。個人のストレス対処法を学ぶだけでは、根本的な職場の課題解決には至りません。

上司や同僚との対話の機会を増やし、相互理解と信頼関係に基づいた心理的安全性の高い職場を作ることが重要です。メンタルヘルスを組織全体の関係性を高める取り組みとセットで進めることで、持続可能な健康経営が実現します。

健康経営におけるメンタルヘルス対策に関するまとめ

Q:健康経営においてメンタルヘルス対策が重要な理由は何ですか?

A:出社していてもパフォーマンスが低下している状態(プレゼンティーズム)を防ぎ、全従業員の活力を高めて組織の生産性やイノベーションを向上させるためです。

Q:施策を成功させるためのポイントは何ですか?

A:不調者のケアという「守り」だけでなく、従業員が自発的に参加したくなる仕掛けを作り、相互理解と心理的安全性の高い組織風土へと改善する「攻め」の姿勢を持つことです。

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