「幸福学」研究の第一人者、前野隆司氏と共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』を通して、次世代の自由でフラットな組織を模索する


仕事にも慣れ、ある程度の役割を任されるようになる。家庭でも、子育てや親のことなど、背負うものが少しずつ増えていく。若い頃に思い描いていた「大人」には、ある程度なれている。
それなのに、ふと立ち止まってしまうことがあります。
このまま、この仕事を続けていくのだろうか。自分は何のために、ここまで頑張ってきたんだろう。まだ人生は長いのに、この先もずっと同じなのだろうか。
何か大きな失敗をしたわけでもない。仕事で成果が出ていないわけでもない。むしろ、周囲から見れば順調に見えている。それでも、自分の内側だけが少し追いつかなくなる。
こうした中年期の揺らぎは、「ミッドライフ・クライシス」と呼ばれることがあります。
スカイベイビーズでは、これを単なる年齢の問題ではなく、これまで積み上げてきた生き方を一度見直し、これからの人生を再編集するタイミングとして捉えています。
なぜ、ある程度キャリアを積んだ頃に「このままでいいのか」と感じるのか。そして、本人や周囲は、その違和感とどう付き合えばいいのか。
代表・安井の視点からひも解きます。

クリエイティブディレクター・代表取締役。クリエイティブや編集の力でさまざまな課題解決と組織のコミュニケーションを支援。「自然体で生きられる世の中をつくる」をミッションに、生き方や住まい、働き方の多様性を探求している。2016年より山梨との二拠点生活をスタート。
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――ミッドライフ・クライシスとは、どのような状態なのでしょうか?

シンプルにいえば、中年期に「このままの生き方でいいんだろうか」と考え始めることだと思っています。
これまで何のために働いてきたのか。誰のために頑張ってきたのか。ここまで積み上げてきたものを、このまま続けていっていいのか。
若い頃とは少し違って、ある程度、生き方や働き方が固まっている時期なんですよね。
仕事では責任も増えているし、家庭もある。今さら全部を変えるのは簡単ではない。一方で、人生はまだかなり残っている。そう思った時に、「このままで本当にいいのか」という問いが出てくる。
ミッドライフ・クライシスは、人生の後半をどう生きるかを考え始めた時に出てくる、内側の揺らぎに近いのだと思います。
――老後や健康への不安とは、少し違うんですね。

健康やお金への不安は、どちらかというと外側の問題ですよね。
体力が落ちてきたとか、老後のお金は足りるのかとか、今までできたことができなくなってきたとか。もちろん、それも中年期には出てくると思います。
でも、ミッドライフ・クライシスで大きいのは、「これまで頑張ってきたけれど、これでよかったんだっけ」という内側の問いです。
何が足りないかというより、自分が何を大事にして生きたいのかがわからなくなる。外側はそれなりに整っているのに、内側で納得できなくなってくる。
そこが、少し違うところだと思います。
――なぜ、40歳前後の時期にこうした悩みが出やすいのでしょうか?

年齢そのものよりも、いろいろな役割が重なりやすい時期だからだと思います。
仕事では、プレイヤーからマネジメントに変わったり、意思決定を任されたりする。責任は明らかに増えていきます。また家庭では、子どもが成長して関わり方が変わることもあるし、親の介護が現実的になってくることもある。
仕事でも家庭でも、「自分がやらなければいけないこと」が増えていくわけです。
若い頃は、自分の成長や挑戦だけを考えやすかったかもしれません。でも、この時期になると、周囲の人の人生まで少しずつ背負うようになる。その中で、自分自身のことを考える時間は減っていきます。
役割を増やし続けて、どこかで限界が来た時に、「そもそも自分はどうしたかったんだっけ」と立ち止まる。そういうことなのだと思います。
――役割を増やし続けることで自分がわからなくなる。

人生の前半は、足し算で進めることが多いと思います。
仕事のスキルを増やす。役職を持つ。収入を上げる。家庭を持つ。人間関係を広げる。できることや持っているものが増えていくことで、人生が前に進んでいる感覚を持ちやすい。
でも、ずっと足し算を続けるのは難しいものです。役割が増えすぎると、どこかで「もう持てない」という状態になります。
そこで必要になるのが、再編集なのだと思います。
何をこれからも持ち続けるのか。何なら手放せるのか。誰かと分担できるものはないか。
ミッドライフ・クライシスは、これまでの人生を否定するタイミングではなく、持っているものをもう一度並べ直す時期なのかもしれません。
――ミッドライフ・クライシスになると、どのような影響があるのでしょうか?

ミッドライフ・クライシスは、はっきりとした形で現れるとは限りません。
「転職したい」と思うこともあれば、理由はわからないけれど仕事への熱量が以前と違う、という形で出てくることもあります。
もし最近、何となく今までと違う感覚があるなら、以下のチェックリストを一度確認してみてもいいかもしれません。
当てはまる数が多いからといって、ミッドライフ・クライシスだと決まるわけではありません。大切なのは、「何個当てはまったか」より、どの問いに少し心が引っかかったかです。
その引っかかりは、今までの生き方が間違っていたという意味ではありません。これまでの足し算から、そろそろ何かを選び直す時期に来ている。そんな小さなサインなのかもしれません。
――実際に「このままでいいのか」と感じた時、何から考えればよいのでしょうか?

全部を変えようとするより、まず「何を手放せるか」を考えたほうがいいと思います。
この時期の人は、すでにいろいろなものを持っています。仕事上の役割もあるし、スキルもある。家族との関係もある。周囲から期待されている立場もある。その中で、全部を維持しながら次に進もうとすると、さらに苦しくなります。
だから、自分にとって本当に大切なものは何なのかを確認する。逆に言えば、「これはもう持たなくてもいいかもしれない」と思えるものを見つける。
そこが一つの分岐点になると思います。人生を全部やり直す必要はありません。持ち方を変えるだけでも、かなり違います。
――とはいえ、なかなか一人で考えるのは難しそうです。

そもそも「自分は今、ミッドライフ・クライシスだ」と明確に気づける人は、そんなに多くないと思います。
何を大切にして生きたいのかがわからない。今まで頑張ってきた意味を確認したい。この先も同じように生きていくことに違和感がある。
こういう問いは、自分一人では見つけにくい。だからこそ、誰かと話すことが重要だと思います。
自己開示できる関係の中で、自分の内面について話しているうちに、「自分はこういうことに悩んでいたのか」と気づくことがあります。
ただ、一足飛びに答えが出るような話ではありません。
たっぷり話せる時間があって、すぐに答えを返さなくてもいい相手がいること。
それ自体がかなり大きいと思います。
――会社から見ると、ミッドライフ・クライシスは気づきにくいのでしょうか?

かなり気づきにくいと思います。
会社では普通に成果を出している人でも、内側では悩んでいることがあります。むしろ、会社でパフォーマンスが高い人は、外側と内側を切り分けるのが上手な場合もある。
仕事ではちゃんと成果を出す。周囲には「順調です」と見せる。でも、自分の中では「このままでいいのか」とずっと考えている。
だから、「成果が出ているから大丈夫」とは言い切れない。
少し元気がない。以前より声のトーンが低い。雑談が減った。何となく雰囲気が違う。
ミッドライフ・クライシスは、そういう小さな変化としてしか見えないこともあります。
――では、会社は何をすればよいのでしょうか?

組織としての一律の対策は、かなり難しいと思います。ミッドライフ・クライシスは、仕事だけの問題ではないことが多いからです。
管理職としての責任、家庭のこと、親のこと、自分自身の将来。いろいろなものが重なって起きている。だから、制度を一つ入れれば解決するという話にはなりにくい。
むしろ大事なのは、日常的な関係性です。
上司と部下だけではなく、横のつながりも含めて、普段から話せる相手がいるか。仕事の成果だけではなく、その人自身の状態にも少し目が向いているか。
何か問題が起きてから急に「大丈夫ですか」と聞くより、普段から自然に話せる関係があるほうがいい。
ミッドライフ・クライシスへの組織の対応は、特別な施策よりも、そういう日常の積み重ねなのだと思います。
――最近、ミッドライフ・クライシスという言葉を以前より耳にするようになりました。

人生が長くなったことは、大きく影響しているかもしれません。昔は、40代くらいになると、ある程度ゴールが見えやすかったはずです。
会社でこのまま働き続けて、定年を迎えて、その後の生活を考える。そういう道筋が比較的見えやすかったと思います。
でも今は、40代になっても、この先がまだ長い。
転職する人もいるし、フリーランスになる人もいる。もう一度新しい仕事に挑戦する人もいる。
周囲にそういう選択肢が見えるほど、「自分はこのまま同じ線の上を走り続けていいのか」と考えやすくなる。変えられる時代だからこそ、変えなくていいのかという問いも出てくる。
それが、今ミッドライフ・クライシスが注目される理由の一つだと思います。
――昔と今では、豊かさの捉え方も変わっているのでしょうか?

以前は、物質的な豊かさがかなりわかりやすい目標だったと思います。
収入を上げる。家を持つ。安定した生活をつくる。そこには、ある程度共通の成功イメージがありました。
でも今は、それだけでは満たされないと感じる人が増えている。
お金があっても、仕事の意味がわからない。成果は出ているのに、心がついてこない。生活は安定しているのに、何かが足りない。
物質的に満たす方法は比較的わかりやすい。でも、「心を豊かにするにはどうすればいいのか」は、かなり難しい。
そこに、今の中年期の悩みがあるのかもしれません。
――心の豊かさを考える時、仕事や組織はどれくらい影響するのでしょうか?

かなり大きいと思います。
この年代の人は、一日のかなりの時間を仕事に使っています。
だから、「プライベートを充実させれば大丈夫」という話だけでは足りません。
仕事をしている時間そのものが、その人にとってどんな時間なのか。
誰と働いているのか。自分の役割に納得できているのか。必要とされている実感があるのか。無理をし続けなくても働けるのか。
そういうことが、心の豊かさに直接つながってきます。
これからの組織は、成果を出す場であるだけではなく、人がどう生きるかとも切り離せなくなっていくと思います。
――スカイベイビーズが大切にしている「自然体」ともつながるのでしょうか?

自然体は、自分一人でつくるものではないと思っています。
人は、いろいろな関係性の中で生きています。
会社では上司や同僚との関係がある。家に帰れば家族との関係がある。友人もいる。その中で、どんな立場で、どうつながり、どう生きるのか。
そういう関係の中に、その人の自然体がある。
もし自然体でいられることが、ミッドライフ・クライシスから少し抜けていく助けになるのだとしたら、本人に「変わってください」と言うだけでは足りません。
周囲とのつながり方も変わる必要がある。自分一人で生き方を立て直すのではなく、良い関係の中で、もう一度自分の生き方を見つけていく。そういうことなのだと思います。
――最後に、「このままでいいのか」と悩んでいる人に、伝えたいことはありますか?

まず、「このままでいいのか」と悩んでいること自体を、あまり責めないでほしいと思います。それは、生きることに真面目に向き合ってきたからこそ出てくる問いでもあると思うんです。
ここまで丁寧に生きてきたから、ある時ふと「これでいいのか」と立ち止まる。だから、すぐに答えを出そうとしなくていい。
こういう問いは、そんなに簡単に解決するものではありません。自分の中にある違和感を少しずつ拾って、何が大事なのかをゆっくり考えていけばいいと思います。
そして、人生を全部やり直す必要もありません。
持っている役割を少し減らしてみる。誰かに分担してもらう。少し距離を取る。働き方を少し変える。
それくらいの小さな軌道修正でも、人生はかなり変わります。
「全部変えなければ」と思うと動けなくなります。でも、今持っているものを少し持ち直すことならできる。
そこから始めればいいのだと思います。
ミッドライフ・クライシスというと、何か危機的な状態のように聞こえます。けれど、その内側にあるのは、「この先をどう生きたいのか」という問いです。
これまで積み上げてきた仕事や役割を、一度並べ直す。もう持たなくてもいいものを手放す。大切なものを確認する。そして、自分だけで答えを出そうとせず、誰かと話しながら少しずつ考える。
それは、人生をやり直すことではありません。これまでの人生を持ったまま、これからの生き方に合わせて再編集していくことです。
スカイベイビーズは、人が「このままでいいのか」と感じた時、その違和感をすぐに消すのではなく、自然体に戻っていくためのサインとして丁寧に扱うことを大切にしています。
あなたの組織で、最近少し元気がないように見える人は誰でしょうか。その人は本当に、やる気を失っているのでしょうか。それとも今、自分の人生と仕事の意味を、静かに結び直そうとしているのでしょうか。
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